株式会社セブン銀行様|事例インタビュー
コンビニATMという革新的なサービスで知られる株式会社セブン銀行様。創業以来、「お客さまの『あったらいいな』を超えて、日常の未来を生みだし続ける」というパーパスのもと、金融サービスの革新を続けてきた同社は、売上高1,000億円を超える企業へと成長を遂げました。
現在、同社は「ATM+(プラス)」というコンセプトのもと、次世代の金融サービスの創造に注力しています。その取り組みの中核を担うのが、2021年7月に設立されたセブン銀行コーポレート・トランスフォーメーション部(CX部)です。全社のデジタル活用推進と変革を担う同部門は、着実な成果を上げています。
今回は、CX部で生成AI活用を推進する水村氏、河野氏に、組織づくりと人材育成の取り組みや研修の成果についてお話を伺いました。
データ活用の先駆者として
―まずは、CX部の設立経緯について教えていただけますか?
水村:この部署は2021年7月に創設されましたが、その前身として2018年頃に「セブン・ラボ」という組織がありました。当時、現社長の松橋が「時代はデータだ」と号令をかけ、セブン&アイグループの購買データを活用したAI活用の実証実験を始めたのがきっかけです。
最初は3人程度の小規模な組織でしたが、機械学習の専門家をコーチとして招き、地道にデータ分析の基盤を築いていきました。その成果を受けて、正式な部門として発足することになりました。
―具体的にはどのような成果が出ていたのでしょうか?
水村:先日も大きな成果の一つとして、購買データを用いた与信審査システムをリリースしました。セブン-イレブン等での購買データを分析し、与信判断に活用するという、かなり画期的な取り組みです。
もちろん、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。データの品質確保や、プライバシーへの配慮、システムの信頼性担保など、様々な課題に直面しました。しかし、それらを一つずつ丁寧に解決していくことで、実用化にこぎ着けることができました。
―そうした変革を推進できた背景には、どのような要因があったのでしょうか?
水村:最も大きいのは、松橋社長のリーダーシップですね。社長は元々高専出身の技術者で、ATMの開発などにも携わってきた経験があります。そのため、技術的な議論も含めて、フリーディスカッションができる関係性があります。
また、朝礼などでも「デジタルを活用しないと置いていかれる」と繰り返し発信してくださっているので、会社全体としてデジタル活用を推進する雰囲気が醸成されています。トップのコミットメントが、変革の推進力になっているのは間違いありません。
組織の特徴と役割
―現在のCX部の体制や役割について教えていただけますか?
水村:現在約40 名体制で、4 つのグループで構成されています。CX 推進グループ、AI・データ推進グループ、生成AI 推進グループ、コーポレートIT デザイン室があります。
部署のミッションとしては「企業変革」を掲げており、データ利活用やRPA導入による効率化、社内のIT環境整備、新規事業の検討まで、幅広い業務を担当しています。また、DMO(データマネジメントオフィス)という組織も設置し、全社のデータ整備と活用促進も進めています。
―変革を進める上で、特に重視していることは何でしょうか?
水村:最も重視しているのが、社員のマインドセット変革です。全社的な変革を進めていく上で、まず私たち自身が成長し、学び続けることが重要だと考えています。
例えば、データサイエンスプログラムという社内向けの研修を実施していますが、これは単なる技術研修ではありません。なぜデータ活用が必要なのか、どのような価値を生み出せるのか、といった本質的な理解を深めることを重視しています。
最初は半日程度の対面研修からスタートし、現在では全てのコンテンツを動画化して、社内ポータルでいつでも学べる環境を整備しました。また、Microsoft Power BIなどのBIツールの活用促進も行い、現場の部門でも自発的にデータ分析ができるよう支援しています。
生成AI活用への取り組み
―生成AI活用については、どのように取り組まれているのでしょうか?
水村:2023年7月頃、ChatGPTが話題になり始めた時期に、部内の有志メンバーが「これは面白そうだから使ってみよう」と触り始めました。その結果、「やはり業務で活用すべきだ」という声が上がり、組織として本格的に取り組むことになりました。
面白いのは、その検討プロセスです。CX部の部長が展示会で様々な企業の生成AI研修のチラシを集めてきて、「これを全部受けてみよう」と指示したんです。一般的な組織では考えにくい行動かもしれませんが、私たちの部署では「まずは徹底的に学ぶ」というアプローチが当たり前になっています。
―実際に複数の研修を受講されて、どのような気づきがありましたか?
河野:私は今年7月に入社したのですが、それまでエンジニアとしての知識がない状態でした。複数の研修を受講して特に感じたのは、対面での学習の重要性です。
オンライン動画での学習も便利ですが、特に新しい技術を学ぶ際には、その場で質問できる環境が重要だと感じました。例えば、RAGの構築に取り組んでいた際、Azureの機能が頻繁に更新され、ネット上の情報だけでは解決できない問題に直面することが多かったのですが、現役エンジニアの講師の方から最新の対応方法を学ぶことができました。
水村:生成AIについては、プロンプトエンジニアリングだけでなく、実際の業務活用まで見据えた幅広い学習を心がけています。特に金融機関として、情報の正確性や安全性の担保は極めて重要です。単に便利だからという理由で導入するのではなく、リスクと効果を十分に見極めながら進めています。
デジタル活用促進の具体的な取り組み
―社内でのデジタル活用を促進するために、具体的にどのような施策を実施されていますか?
水村:大きく分けて三つのアプローチを取っています。一つ目が「学びの場の提供」、二つ目が「実践の機会の創出」、そして三つ目が「評価の仕組みづくり」です。
まず「学びの場の提供」については、先ほど申し上げたデータサイエンスプログラムの他にも、様々な施策を展開しています。例えば、Microsoft Power Automateの活用研修や、生成AI活用のワークショップなどを定期的に開催しています。
二つ目の「実践の機会の創出」の代表例が、定期的なハッカソンの開催です。社内ポータルで参加者を募集すると、すぐに定員の30名程度が集まってしまうほどの人気があります。3日間程度の短期間で、自分たちが解決したい業務課題のアプリケーション開発に取り組みます。
―具体的にどのような成果が生まれているのでしょうか?
水村:例えば、人事部の図書貸出管理アプリは、ハッカソンから生まれた成果の一つです。それまで紙ベースで管理していた社内の書籍貸出を、完全にデジタル化することができました。
そして三つ目の「評価の仕組みづくり」も重要です。ハッカソンでの成果や、業務改善の取り組みは、目標管理にも反映される仕組みを整えています。例えば「ハッカソンに参加してアプリを開発します」と目標に掲げ、実際に成果を出せば評価にも繋がります。
―社員の方々の反応はいかがですか?
水村:ATMという技術を基盤とした会社であることもあり、新しい技術やDXへの抵抗感は比較的薄いと感じます。例えば、Microsoft Power Automateを使って業務フローを自動化したりする動きが、現場から自発的に出てきています。
ただし、課題がないわけではありません。例えば、生成AI活用の社内利用率は現在約3.3%程度にとどまっています。これを高めていくために、毎週新しいプロンプトテンプレートを追加したり、活用事例を共有したりと、地道な普及活動も続けています。
金融機関ならではの課題と対応
―金融機関として、デジタル活用を進める上で特に注意されている点はありますか?
河野:現在、社内向け生成AIポータルの開発に注力していますが、最も重視しているのが情報の正確性です。12月にリリース予定の社内規程や決裁権限に関する問い合わせシステムでは、あえて回答生成は行わない方針を採用しました。
具体的には、「この内容については、こちらのページをご確認ください」という案内に特化する形です。生成AIの回答を100%信頼することはできませんので、特に重要な規程や決裁に関する情報は、必ず正規の文書を参照していただくようにしています。
水村:銀行業務においては、一つの間違いが大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、新しい技術の導入に際しては、利便性と安全性のバランスを特に慎重に検討しています。
また、情報セキュリティの観点から、外部の生成AIサービスの利用には制限を設けています。その代わりに、社内で安全に利用できる環境の整備を進めていますが、これも段階的なアプローチを取っています。
組織変革におけるリーダーシップの重要性
―変革を成功に導くために、リーダーシップの面で特に意識されていることはありますか?
水村:最も重要なのは「実践者として先頭に立つ」という姿勢です。例えば、部門長である中村は自らデータ分析に取り組み、週に1回は外部のセミナーやカンファレンスに登壇・参加して知見を共有・獲得しています。
また、松橋社長も技術者としてのバックグラウンドを活かし、ハッカソンの成果発表会では技術的な質問や具体的なアドバイスをしてくださいます。このように、リーダー自身が積極的に関与することで、組織全体の変革への意識が高まっていると感じています。
―外部との連携や情報発信についてはいかがでしょうか?
水村:積極的に取り組んでいますね。金融系の様々な組織と連携し、定期的に情報交換を行っています。こうした外部との対話は、自組織の取り組みを客観的に評価する良い機会になっています。
また、セミナーやカンファレンスでの登壇を通じて、他社との情報交換や人材確保にもつながっています。「こんな面白いことをやっている会社なんだ」と興味を持っていただき、実際に転職を検討してくださる方もいます。
今後の展望と課題
―今後の展開について教えていただけますか?
河野:生成AI活用については、まず社内ポータルの充実に力を入れていきます。テンプレートの提供や、ユースケースの共有など、より使いやすい環境を整備していく予定です。
また、RAGについても技術の進展を見極めながら、段階的に導入を検討していきたいと考えています。ただし、これも「まず情報提供から始めて、徐々に機能を拡充していく」というアプローチを取る予定です。
水村:中長期的な課題としては、デジタル活用の「当たり前化」を目指しています。現在は特別な取り組みとして認識されがちなデジタル活用を、日常業務の自然な一部として定着させることが目標です。
そのためには、継続的な教育と成功体験の積み重ねが重要です。小さな成功を着実に積み上げ、組織全体の変革につなげていきたいと考えています。
他社へのアドバイス
―最後に、同じようにデジタル変革に取り組む企業へのアドバイスがあればお願いします。
水村:三つのポイントをお伝えしたいと思います。
一つ目は「トップのコミットメント」です。私たちの場合、社長自身が技術への深い理解を持ち、積極的に推進してくれることが、変革の大きな推進力になっています。
二つ目は「学びの文化の醸成」です。特に新しい技術の導入では、まず徹底的に学ぶ姿勢が重要です。私たちの場合、複数の研修を並行して受講するなど、かなり思い切った投資をしていますが、それが結果的に良い判断だったと感じています。
三つ目は「段階的なアプローチ」です。特に金融機関の場合、安全性や正確性が極めて重要です。だからこそ、小さく始めて、成果を確認しながら徐々に拡大していくアプローチが有効だと考えています。
河野:私からは、特に人材育成の観点でアドバイスさせていただきます。新しい技術の導入では、必ずしも全ての知識を持っているメンバーばかりではありません。私自身、エンジニアの経験がない状態からのスタートでしたが、基礎から丁寧に学ぶ機会があったからこそ、今の業務に取り組めています。
人材育成には時間とコストがかかりますが、それを惜しまない姿勢が、最終的には組織の大きな強みになると信じています。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
<取材協力>
- セブン銀行 コーポレート・トランスフォーメーション部 水村様
- セブン銀行 コーポレート・トランスフォーメーション部 河野様
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