DX戦略とは?よくある誤解やビジョンの考え方をやさしく解説
効率的に企業のDX化を進めるためには、綿密な戦略が必要です。しかし、具体的にどんな戦略を立てればいいのかイメージが湧かない人は多いですよね。
そこで、今回はそもそもなぜDXを進めるのに戦略が必要なのか、その理由を戦略の立て方も交えわかりやすく解説します。また、戦略を立てるうえで参考となる資料も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
なお、次の記事ではそもそもDXとは何なのか、その特徴や導入するメリット・デメリットを詳しく解説しています。ぜひご一読ください。
DX戦略とは
DX戦略とは、DXを進める上で必要な、経営層が提示するべきロードマップのことを指します。
何を目的として誰がどのように進めるか、何ヵ月後にどうなっていくのかという筋道をあらかじめ立てておくと、行動が明確になり全社員が動きやすくなります。
経済産業省の『DXレポート2』では、どんな指針でDX導入に取り組むべきかが示されています。
・コロナ禍でも従業員・顧客の安全を守りながら事業継続を可能とするにあたり、市販製品・サービスの活用による対応を検討すべき
・ツールの迅速かつ全社的な導入には経営トップのリーダーシップが重要。企業が経営のリーダーシップの下、企業文化を変革していくうえでのファーストステップとなる
・常に新しい技術に敏感になり、学び続けるマインドセットを持つことができるよう、専門性を評価する仕組みや、リスキル学習の仕組みを導入すべき
引用:経済産業省『DXレポート2』
上記のように、レポートでは短期から中長期的にわたる対応が示されています。つまり、DX化を進めるうえでは前もって具体的な指針や戦略が必要だといえるのです。
DX戦略の考え方
DX戦略を考える際、外せないポイントがいくつかあります。ここでは、DX戦略を立てるうえで押さえておきたい2つの考え方を紹介します。
DX戦略のよくある誤解
DXを進める上でよく勘違いされるのが「DXは業務をデジタル化さえすればいい」という点です。
デジタルツールやデジタル技術の導入は、あくまでも手段にすぎません。DXを進めるうえでは、他にも進めるべき施策や考えるべきことがあります。
例えば「既存のデータを上手く活用して業務に活かすこと」もDXの1つです。自社の状況や活用できるデータ、利用できるツールなどを整理した上で戦略を練っていくことが重要となります。
DX戦略にはビジョンが必要不可欠
DX戦略を練る上で、ビジョンを立てることは必要不可欠です。ビジョンとはDX実現後に目指したい姿のことで、DXを進める方向性に大きく影響します。ビジョンが無ければ、施策を実行しても成果につながらないケースがあるからです。
例えばDXを進めるときに「AIを導入しよう」と考えて行動しても、AIを活用して何を実現したいかのビジョンがなければ何を改善すべきかわかりません。そのため、実現したいことから逆算して必要な技術や施策を検討する必要があります。
DXのビジョンを立てる上では経済産業省がまとめている「デジタルガバナンス・コード 実践の手引き2.0」が参考となります。
特にポイントとなるのが「理念や存在意義から考えること」「5〜10年後の姿を考えること」の2つです。
例えば上の図でいうと「地域・顧客・従業員に選ばれる会社となる」をビジョンに掲げています。そして、5〜10年後の実現に向けて「生産性を向上し、従業員の可処分所得を上げる」という具体的な目標を立てています。
このように、ビジョンから逆算して戦略を練ることがとても重要です。
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ビジョンをもとにしたDX戦略が必要な3つの理由
DX戦略を立てることが必要とされる主な理由は、次の3つです。
ひとつずつ解説します。
手段の目的化を防げる
あらかじめDX戦略を立てておけば、手段が目的化するのを防げます。
もし戦略を立てていない場合、むやみにデジタル化やIT化すること自体が目的となりかねません。
「新しいDXの施策を手当たり次第に行う」など、不要なコストが発生してしまいます。課題の解決にならないDXを推進して、企業にとってのマイナスを増やしてしまっては、本末転倒です。
DXは、あくまで企業が抱える課題解決のために行う手段です。DXが目的になってしまわないためにも、ゴール設定や道筋の設計といった戦略が必要なのです。
全社が一丸となってDXを進められる
あらかじめDX戦略を立てて社内に共有しておくことで、社員が一丸となってプロジェクトを進められます。なぜなら、経営層が最初にDX戦略を提示することで目的を共有しやすく、部署の垣根を超えて協力しやすくなるからです。
仮にDX担当者が目的意識を持って動いていたとしても、全社的に目的意識が無ければ実現は難しくなってしまいます。施策を提案しても上手く通らない場合や、予算が上手く確保できないこともあります。
一方でDX戦略をしっかりと立て、部署や個人の目標に組み込んだ場合はどうでしょうか。ひとりひとりの行動がDX推進につながりやすくなり、結果的にDXを進めやすくなります。
未来を見据えたDX実現に向けた施策を打てる
DXは数年先を見据えて行動していくことがとても重要です。なぜなら実行する施策が直近の課題解決にとどまってしまうと、あるべき姿に向かっていくことが難しいからです。
例えば業務効率化のために「ペーパーレス化」をしたとします。今までFAXなどでやり取りしていた場合、管理コストが大幅に減って効率化にはつながります。
しかし業務効率化をする上で、ペーパーレス化以外にも実現すべきことはあるはずです。例えばペーパーレス化を上手く活用して既存業務を自動化する仕組みを作ることや、AIを組み込んだ自動化チェックツールを組み込むなどです。
こういった点が、直近の課題を見るだけではなかなか見えてきません。しかし「5年以内に従業員の可処分所得を5%向上させるため、業務効率化を進めて生産性を上げる」とビジョンを掲げた場合はどうでしょうか。
ペーパーレス化でどの程度生産性が上がったのか確認しつつ、足りない場合は次の施策を考えて行動しやすくなります。このように、事前にDX戦略を立てることはとても重要です。
DX戦略を立てる前に読んでおきたい3つの資料
ここまでDX戦略の考え方や必要性などを解説しました。しかしDX戦略を立てることは難しく、具体的にどう進めればいいのかイメージできない方も少なくありません。
まずはDX戦略の概要を押さえるために、経済産業省やIPAが出している下記の資料を読むことをおすすめします。
1.中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き
中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引きは経済産業省がまとめた資料で、DXを進めるときの目標の立て方や企業事例を確認できます。特に企業事例は豊富に掲載されており、それぞれ下記の内容がまとめられています。
- 何のために会社があるか
- 5~10年後にどんな会社でありたいか
- 理想と現状の差分は何か・どう解消するか
- 顧客目線での価値創出のためデータ・技術をどう活用するか
DX戦略の中でもビジョンを立てるうえでとても役立つ内容になっているため、おすすめです。ちなみに資料は「概要版」「要約版」「本体」の3つの資料に分かれており、要約版を読むだけでも参考になります。
2.DXレポート
「DXレポート」は、経済産業省が設置した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の議論をまとめて公開した資料のことです。2023年8月時点ではDXレポート2.2まで出ており、それぞれのテーマは下記のとおりです。
資料名 | 概要 |
DXレポート | レガシーシステムから脱却し、経営を変革 |
DXレポート2(中間取りまとめ) | レガシー企業文化から脱却し、本質的なDXの推進へ |
DXレポート2.1 | 目指すべきデジタル産業の姿・企業の姿を提示 |
DXレポート2.2 | デジタル産業への変革に向けた具体的な方向性やアクションを提示 |
DXレポート、DXレポート2は企業が抱える課題や本質的なDX推進に関してまとめられています。DX戦略を練る上で、目指すべき企業の姿や具体的なアクションを押さえたいときにおすすめです。
DXレポート2.1以降は、具体的な方向性やアクションに関してまとめられています。特にDXレポート2.2では「デジタルで収益向上を達成するための特徴」もまとめられており、売上アップを実現したい方の参考となります。
3.DX白書2023
DX白書2023は、IPA 独立行政法人情報処理推進機構がまとめた資料です。DX白書2021の続刊として、最新の動向などを盛り込んだ資料として公開されました。
主に、下記の内容がまとめられています。
- 国内におけるDXの取り組み状況
- 企業が進めているDX戦略の全体像や進め方
- DXを推進している企業事例のインタビュー
- デジタル時代の人材に関する考え方
- DX推進に必要なITシステム開発手法と技術
特に企業が進めているDX戦略の全体像や企業のインタビューは、自社のDX戦略を練る上で参考となります。非常にボリュームのある資料なので、少しずつ読むことがおすすめです。
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DX実現に向けて戦略を立てる5ステップ
経済産業省やIPAが出している資料には、DXの進め方に関する参考情報が書いてあります。しかしいざDX戦略を立てようと思ったとき、悩む方も多いです。
ここからは、DX戦略を立てるときの流れを紹介します。
DXで実現したいビジョンを明確化する
DX戦略の考え方でもお伝えしたとおり、ビジョンを明確化することが重要です。
例えば株式会社山本金属製作所の例を見てみましょう。
株式会社山本金属製作所では、リーマンショックの影響から自ら市場を開拓するビジネスモデルへの転換を考え「機械加工現場にイノベーションを起こす」ことを存在意義として掲げました。
また、5〜10年後にありたい姿として下記の2つを目標としています。
- 「これまでの機械加工のやり方を変えて、面白い、わくわくする機械加工」を目指す
- 機械加工の現場の課題を解決し、日本のものづくりに貢献する
このように自社としてどうあるべきか、達成するために数年後に向けて何を実現したいかを整理することが重要です。
ビジョンの実現に向けて取り組む領域を決める
ビジョンを整理できたあと、実現に向けて取り組む領域を決めましょう。ビジョンを実現する上ですべきことは、とても多いです。
例えば部品メーカーが「5年後までに、お客様に喜んでもらえる施策で売上を1.5倍に伸ばしたい」とビジョンを掲げていたとします。売上を伸ばす方法の例は、下記のようにいろいろあります。
- マーケティングに力を入れて新規顧客の獲得に力を入れる
- 既存顧客の満足度向上につながる新規製品を開発する
- 個数が少なくても買えるようにECサイトを立ち上げる
手当たり次第に着手していては、予算や人員がいくらあっても足りません。自社のあるべき姿や存在意義とも照らし合わせつつ、取り組む領域の優先度をつけましょう。
DX実現に向けた自社の課題を整理する
取り組む領域を絞った後、進める上での課題を整理します。例えば「少ない個数で部品を購入できるECサイト」を立ち上げる場合は、下記の課題が出てきます。
- 競合サイトと差別化をはかるにはどうすべきか
- ECサイトをどうやって構築すべきか
- ECサイトの運用方法やルールをどうすべきか
- ECサイトのセキュリティ対策などはどうすべきか
- ECサイトを運用する人材の確保をどうするか
実現する上で必要となることや課題、解決策などを整理しておきましょう。そのうえで、自社でできることや外部に依頼すべきことなども明確化しておくことがおすすめです。
DX実現に向けた計画を立て施策を検討する
自社の課題やすべきことがある程度整理できたあと、DX実現に向けた計画を立てましょう。「5年後までに、お客様に喜んでもらえる施策で売上を1.5倍に伸ばしたい」がビジョンの場合は、5年後までに毎年何を実施するのか計画を立てるイメージです。
計画を進めるうえで、デジタル人材の確保やビジネスパートナーの選定などが必要となることもあります。人材の確保・獲得に関しては、DX白書2023にある下記の図が参考となります。
社外の専門家との契約や中途採用もありますが、社内人材の育成がもっとも成果を出しています。つまり、業務知識が豊富な従業員がDXに関する知識を習得することで、DX推進につながりやすいというわけです。
DXを推進する人材の育成方法に関しては、下記の記事で詳しく解説しているので合わせてご一読ください。
部署や従業員の目標にDX実現に向けた施策を組み込む
DX戦略のビジョンや計画を立てたとしても、従業員に周知しただけで実現するとは限りません。着実に前に進めていく上で重要なのが、部署や従業員の目標にDX実現に向けた施策を組み込むことです。
例えば部署目標に「ECサイトの構築・運営に必要な人材を育成する」を入れた場合は、下記が個人の目標の候補となります。
- ECサイト運営に役立つセミナーや研修を受ける
- ECコンサルティングを依頼する業者を調査する
- 「ネットショップ検定」などのECサイト運営に役立つ資格取得を目指す
なお、資格取得を促すことが難しい場合は、資格取得の奨励制度に加えることもおすすめです。従業員にとってもメリットを感じやすい仕組みづくりが、DX推進につながります。
DX戦略を進める上で意識すべき3つのポイント
DX戦略は、ただ立てるだけでは不十分です。無事にDX戦略を立てられても、実際に進める段階での考え方を間違えてしまっては、せっかくの戦略も効果を発揮しません。
実際に「戦略は立てたものの、効果的に進めるコツを知りたい」という方は多くいますよね。
DX戦略を効果的に進めるために、つぎの3つのポイントをおさえましょう。
1つずつ説明していきます。
小さく始める
まずDXは、部署ごとのデジタル化や業務整理など、小さい規模の改革から導入するのがおすすめです。
もし大きい規模の改革から始めてしまうと、失敗した場合のリスクがとても大きくなります。さらに、社内の全員が他のDX導入に消極的になる恐れがあります。
反対に小さな改革の成功を積み上げていると、社内に自信あふれる空気がでてくるうえ、小さな成功で得た知見や利益を大規模な改革に生かせます。
失敗してもいい程度のことから取り組み「DXはまず動かないと進まない」という意識を社員全員につけさせましょう。
安定的なシステム構築を目指す
新しいシステムを導入する場合、長期的な視点で安定的なシステム構築を目指しましょう。
たとえば一括データ管理ツールやセキュリティシステムなど、会社の基盤になるような技術的ツールは、一度入れてしまうと短期間で簡単に変更したり入れ替えたりすることが難しいものです。
もし事業部ごとにシステムを個別導入したりすると、互換性がないため非効率が発生したり、手続きや連絡系統も複雑になったりしてしまいます。先のことを考えると、全社で規格を統一していたほうが、トラブル対応などもスムーズに行えます。
安定第一の意識を持って、効率的でトラブルに強いシステム運用を行いましょう。
ITに強い人材を育成する
DX戦略を進めるにあたり、ITに精通した人材の育成も不可欠です。
外注で業務を委託しようとすると、費用もかかります。また、人材を募集し0からコミュニケーションをとる労力もかかります。新たに採用するという手もありますが、こちらも費用と労力がかかります。
社内でIT人材育成が育てば、DX戦略も効率的に進んでいき、今後の長期的な活躍も見込めます。
ただ、人材を育成するといっても「どう育成していけばいいかわからない」といった場合、次の記事を参考にしてください。DX人材に必要なスキルや、育成ステップを解説しています。
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効果的なDX戦略を立てるなら社外サービスの活用も検討しよう
ここまで、DX戦略の具体的な立て方と進め方を紹介しました。ただ、DX推進に関する経験やノウハウがそもそもない企業では、最初からうまくDX戦略を立てるのが難しいところもありますよね。
効果的なDX戦略を立てるなら、社外サービスの活用も選択肢の1つです。
たとえば侍エンジニアビズ(SAMURAI ENGINEER Biz)は、個人向けプログラミングスクールとして豊富な実績を持つSAMURAI ENGINEERが運営する、法人向けIT研修サービスです。
中でもDXメンタリングサービスでは「業務整理」から「システム導入」、IoTやAIの活用など、あらゆる課題・現状にあわせたノウハウを提供しています。
もしDX戦略の設計が現状の課題であれば、戦略づくりや実際の進め方についてもサポートが受けられます。
なお、侍エンジニアビズでは事前に研修資料を確認できるホワイトペーパーも提供しています。気になる方は一度ご確認ください。
DXの実現にはビジョンと戦略の立案がとても重要
今回は、そもそもなぜDXを進めるのに戦略が必要なのか、その理由を戦略の立て方も交えわかりやすく解説しました。
DX戦略を立てるには、ビジョンの共有と課題の洗い出しが大切です。そして、限られたリソースの中で、現実的にできるかどうかを判断して施策を絞る必要があります。
立てたDX戦略をうまく進めていくためには、必要なスキルを身につけていけそうな人材を選択・育成して「小さな成功体験をたくさん積ませる」ことを心がけましょう。
「戦略づくりにどう手をつけていいかわからない」「正しいDX戦略が組めているか不安」と悩んでいる方は、社外のサポートサービスを受けてみてください。