情報セキュリティ人材育成の効果的な方法とは?成功事例も紹介
デジタル技術が発展し、業務効率化が実現する一方、サイバー攻撃の手法も多様化しています。情報漏洩などの事故を防ぐには、情報セキュリティ人材育成が不可欠です。
この記事では、情報セキュリティ研修の企画、実施、効果測定などの方法や、研修効果を高める方法を解説します。また、情報セキュリティ研修を実践している企業の事例も紹介します。
情報セキュリティ人材育成の必要性
デジタル技術が進化するとともに、データの漏洩やSNSの炎上といった問題のリスクは高まっています。これらの問題を回避するには、社員それぞれが情報セキュリティを高める意識を持つことが重要です。
ここでは、企業の情報セキュリティの重要性や、情報セキュリティの必要性について説明します。
企業の情報セキュリティの重要性
企業の情報セキュリティが脆弱だと、情報漏洩やサイバー攻撃などのリスクが高まります。情報セキュリティの事故が発生してしまうと、企業の信頼性が損なわれたり、法的な問題が生じたりと深刻な問題につながります。
そこで、企業には、社内の情報セキュリティを強化することで、情報漏洩やサイバー攻撃などのリスクを最小限にする努力が求められます。そのためには、社員教育やセキュリティ対策の強化などが必要です。
セキュリティ研修を実施すれば情報漏洩やサイバー攻撃のリスクを認識し、事故発生時に適切な対応策を取ることができます。また、セキュリティ対策の強化によって、不正アクセスやウイルス感染などのリスクを最小限に抑えることができます。
企業が情報セキュリティ人材を必要としている理由
企業が情報セキュリティ人材を必要としている理由は、情報漏洩やサイバー攻撃などのリスクを回避するためです。
JINSA(日本ネットワークセキュリティ協会)の「情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」(2018)によれば、情報漏洩の原因の約60%が「紛失・置き忘れ」「誤操作」「管理ミス」です。つまり、情報漏洩は悪意ある第三者によるサイバー攻撃ではなく、社員のケアレスミスに起因するものが過半数を占めるということです。
そのため、情報の取り扱い方に熟達し、ミスを起こさない情報セキュリティ人材が社内に増えれば、情報漏洩のリスクを抑えられるといえるでしょう。
出典:JINSA(日本ネットワークセキュリティ協会)「2018年情報セキュリティインシデントに関する調査報告書(速報版)」
情報セキュリティ人材育成がもたらす効果とメリット
情報セキュリティ人材育成を全社員向けに実施すれば、社員一人ひとりのセキュリティ意識が向上します。
具体的には、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクを認識し、適切な対応策を取れるようになります。
また、セキュリティリテラシーも向上します。社員が情報セキュリティに関する基礎知識を身につけることで、情報セキュリティ事故を未然に防げるでしょう。
また、情報セキュリティ人材育成によって、企業イメージの向上も見込めます。情報漏洩やサイバー攻撃などの事故が起こっていないことで、顧客や取引先からの信頼を得られます。さらに、情報セキュリティに対する、意識の高い企業として世間から認知されるようになるでしょう。
情報セキュリティ人材育成の具体的な方法
では、社内で情報セキュリティ人材を育成するにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは、セキュリティ研修の方法や、プログラムを開発、設計する際のポイントについて紹介します。
人材育成の方法3選
情報セキュリティ人材育成の方法には、下記の3つが挙げられます。
それぞれについて詳しく説明します。
eラーニング
eラーニングは、受講者が動画教材やテキストを利用して学ぶ研修方式です。受講者の好きなタイミングや場所で実施できるため、会社側であらかじめ研修用の時間や場所を設定する必要がありません。また、集合研修に対して比較的安い価格で受講できるのも魅力です。
一方、社員がちゃんと受講したかどうか進捗管理をこまめに行う必要があります。また、基本的に教材を観る、読むといった受動的な研修になるため、確認テストを実施するなど学習効果を高めるような対策も重要です。
オンライン集合研修
オンライン集合研修は、オンライン上で講師から直接講義を受ける方式です。オンラインで実施するため、受講者が会場まで移動する手間がかからず、リモートワークを導入している職場にも向いています。さらに、不明点があれば直接講師に質問できるため、受講者の理解度を上げられます。
一方、オンライン集合研修では質問などをチャットで受け付けて回答という形式が多いので、文字でのコミュニケーションが苦手な受講者にとってはなかなか質問をしづらい状況になる可能性もあるでしょう。
オフライン集合研修
オフライン集合研修は、社内会議室や社外のITスクールなどで講師から講義を受ける方法です。直接顔を合わせながら受講できるため、受講生の集中度が上がります。また、グループワークなども行いやすいというメリットもあります。
一方、社外でオフライン集合研修を実施する場合は、受講生が会場に移動する時間や交通費がかかります。社内に講師を招くというのもひとつの手ですが、その場合は講師の交通費も負担しなければいけません。
カリキュラム開発のポイント
情報セキュリティ人材育成のカリキュラム開発においては、目的の明確化が重要です。新入社員向けの研修であれば、基本的なセキュリティの概念から教える必要があります。
しかし、IT知識を元々備えたエンジニア向けの研修では、不正アクセスがあった場合の対処方法やシステム管理の方法などを扱うべきでしょう。
また、情報セキュリティの範囲は広いため、個別のテーマに絞ることも有効です。例えば、「外出先でPCを利用する場合の注意点」や「SNSの使用方法」といった具体的な事例に焦点を当てることで、より実践的な知識を身に付けられます。
さらに、実践的なトレーニングを取り入れることも重要です。ダミーのフィッシングメールを受講者に送付するなどのシミュレーションを通じて、現実的な状況に対処する能力を高めることができます。
実施タイミングを選ぶポイント
情報セキュリティ人材育成研修には、定期的、または不定期に行うものの2種類があります。
定期的な研修としては、全社員向けの研修や新入社員向けの研修が挙げられます。全社員向けの定期的な研修を行う場合、毎回同じ内容だと形骸化してしまうため、近年のセキュリティ動向を取り入れる必要があります。また、業務負荷が大きい繁忙期は避けた方がよいでしょう。
一方、不定期の研修は、同業他社や自社でセキュリティの事故が発生したり、新種のウイルスやサイバー攻撃手法が発生したりといった場合に、随時行うことが効果的です。最新のセキュリティ情報を迅速に社員に伝えることで、セキュリティに関するトラブルを回避できる可能性が高まります。
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情報セキュリティ人材育成における評価と改善
情報セキュリティ人材育成の研修を行った場合は、その後どのような効果が表れたのかを計測・評価することが重要です。その結果、改善すべき点があった場合は次回に活かせるよう、研修実施前にあらかじめ効果の評価方法を決めておきましょう。
ここでは、情報セキュリティ人材育成の評価方法や改善策について解説します。
情報セキュリティ人材育成の評価方法
人材育成の評価方法の代表例を3点紹介します。
- 1. 確認テスト実施
- 2. 受講者へのアンケート
- 3. 情報セキュリティ事故の発生件数計測
それぞれについて、詳しく説明します。
1. 確認テスト実施
研修の最後に、講義内容のテストを実施します。受講者の理解度や、つまづきやすいポイントが可視化できるでしょう。
また、研修前にもテストを実施し、研修後の結果と比較すると、受講者の研修前後の変化がより明確になります。
2. 受講者へのアンケート
受講者にアンケートを取り、研修で学んだ内容や満足度について質問するのも有効です。満足度が低い場合は次回以降のカリキュラムの見直しにつなげましょう。
3. 情報セキュリティ事故の発生件数計測
情報セキュリティ研修の実施前後で、情報漏洩やサイバー攻撃といった事故の発生件数を比較すると、研修の効果が分かります。
情報セキュリティ研修の改善策
情報セキュリティ研修を実施しても受講者の理解度が低い場合、さまざまな改善策を講じる必要があります。
例えば、研修後にフォローアップとして研修内容の復習を行う機会を設けることが重要です。また、社員にとって研修内容の難易度が高すぎる場合は、より易しいカリキュラムに変更することや、レベル別に受講者を分けて別々の研修を行うことが有効です。
また、いくら社員のセキュリティリテラシーを高めても、サイバー攻撃を受ける可能性はあります。そのため、セキュリティシステムを導入することもひとつの対策法です。例えば、社内システムの操作ログを取得すれば、不審なアクセスがあった場合に迅速に対応できるでしょう。
評価結果と改善プランの作成・管理
情報セキュリティ人材育成研修を実施した後、その効果を正確に評価することは重要です。評価結果を保管し、分析することで、次回の研修の改善に活用できるためです。
まずは、評価結果をまとめて保管し、閲覧しやすい状態にしましょう。具体的には、アンケート結果や受講者からのフィードバック、研修中の実習や演習の結果などが挙げられます。これらの評価結果をいつでも参照できる状態にしておくことで、研修内容の改善や見直しに活用可能です。
次に、評価結果を分析することで、研修内容の問題点を特定できます。例えば、受講者の理解度が低かった場合は、よりわかりやすい説明や、より実践的な演習を取り入れることが必要です。また、研修内容が受講者のレベルに合っていない場合は、レベル別に分けた研修実施を検討するのも一案でしょう。
最後に、問題点を特定し、改善策をまとめた改善プランを策定することが必要です。改善プランを作成することで、次回以降の研修で効果を向上できます。作成の際は、課題点と改善策をまとめ、研修の効果をより高めるための具体的な方策を盛り込みましょう。
情報セキュリティ人材育成における注意点と課題
情報セキュリティ人材育成は企業にとって必要な施策ですが、実施に際してはコストや費用がかかります。また、研修効果を高めていくにはさまざまな課題をクリアする必要もあるでしょう。
ここでは、情報セキュリティ人材育成における注意点や課題に関して解説します。
情報セキュリティ人材育成における注意点とデメリット
情報セキュリティ人材育成には大きなメリットがある一方で、注意点やデメリットも存在します。
まず、人材育成にはコストや時間がかかるという点が挙げられます。また、社員が研修を受ける間は通常業務に取り組めなくなるため、業務への影響も考えなければなりません。
さらに、全社員向けの情報セキュリティ研修は定期的に行われることが一般的ですが、毎回同じ内容だと受講者が研修の形骸化を感じ、モチベーションが低下することがあります。そのため、研修の内容や形式を定期的に変更することが必要です。
さらに、サイバー攻撃の手法は常に変化しており、情報セキュリティ研修も常に最新情報に基づいて実施する必要があります。このため、継続的な情報収集や改善に費用や時間を投資する必要があります。
情報セキュリティ研修の効果を最大限に発揮するためには、注意点やデメリットを理解し、継続的に改善することが必要です。
情報セキュリティ人材育成の課題と解決策
情報セキュリティ人材育成の課題は、研修カリキュラムの最新情報へのアップデートが必要であり、社内のセキュリティ教育担当者の負担が大きくなることです。
この課題を解決するためには、外部研修会社への外注が有効です。講師はセキュリティのプロであり、最新の動向も把握できています。
特に、侍エンジニアBizでは、クライアントそれぞれに合ったカリキュラムをオーダーメイドで作成するため、要望に柔軟に応じた研修を実施可能です。
次に、効果測定がしやすい研修方法を取り入れることも重要です。迷惑メールを模したメールを社員に配信し、反応をチェックするメール訓練型のサービスを利用すると、社員の理解度や反応を測定できます。
これらの効果測定の結果を踏まえ、改善点を取り入れた最適なカリキュラムを作成可能です。
情報セキュリティ研修サービスのおすすめについては下記の記事にもまとめているので、ぜひ併せてチェックしてみてください。
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情報セキュリティ人材育成に成功した企業3社の成功事例
情報セキュリティ人材育成を効果的に行うには、研修を通じて社員のスキルアップやセキュリティリスクの低減などに成功した事例を参考にするのが有効です。ここでは、3社の事例を紹介します。
1. 株式会社日立製作所
株式会社日立製作所は、社員のセキュリティレベルを定義し、個々が持っているセキュリティリテラシーや必要な研修を可視化して、効率的な社内セキュリティ研修を実施しています。
また、社内に情報セキュリティ研修を企画・運営する委員会組織を設置して、定期的にカリキュラムの見直しを行って内容のブラッシュアップを図っています。
株式会社日立製作所「社会インフラを担うセキュリティ人財育成の課題と日立の取り組み」
2. 株式会社ベネッセコーポレーション
株式会社ベネッセコーポレーションは、経営層からアルバイトに至るまでの全従業員に対して情報セキュリティのオンライン研修を実施しています。2014年に個人情報漏洩事故が発生したことから、特に個人情報保護に力を入れた内容です。
また、社内にセキュリティデーを定め、事故の振り返りや各部署での情報セキュリティ強化の取り組み事例を共有する機会を設け、社内のセキュリティ意識醸成に取り組んでいます。
株式会社ベネッセコーポレーション 情報セキュリティ強化の取り組み
3. 三菱UFJフィナンシャル・グループ株式会社
三菱UFJフィナンシャル・グループ株式会社では、金融インフラを安定稼働させるための情報セキュリティ人材育成に注力しています。
例えば、主要グループ会社の全社員に向けて、eラーニングやフィッシングメール訓練、サイバー攻撃への対応策の周知を通じたセキュリティ教育を実施しています。また、警視庁や金融庁が実施する訓練・演習への参加などにも参加し、サイバー攻撃の最新動向を取り入れているのが特徴です。
よくある質問(FAQ)
ここでは、情報セキュリティ人材育成に関するよくある質問を紹介します。
- 情報セキュリティ人材がいらないと言われているのは本当でしょうか?
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企業の規模や業種によって必要性の程度は異なりますが、一般的に情報セキュリティ人材は必要不可欠な存在です。
セキュリティエンジニアなど、情報セキュリティの専門知識を持った人材がいることで、情報漏洩やサイバー攻撃といったセキュリティ事故を未然に防げるためです。
- セキュリティ人材のスキルマップを作成できますか?
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業種や職種によって内容は異なりますが、セキュリティ人材のスキルマップを作成することは可能です。
スキルマップを作成すると、個々の社員に必要なスキルや知識、経験を明確化でき、効率的な育成計画の策定や適切な人材配置に活用できます。
- 情報セキュリティ人材とは企業の組織でどのような役割を担う人材ですか?
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セキュリティ人材は、情報セキュリティの専門知識や技術を持ち、情報システムのセキュリティ強化やリスク管理に貢献する人材を指します。
具体的には、情報システム部門やセキュリティ専門部門に在籍するセキュリティエンジニアなどです。社内のセキュリティ教育やセキュリティポリシーの策定・運用、セキュリティ事故の対応などを担当しています。
- 情報セキュリティ人材不足は企業にどのような影響がでますか?
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企業が情報セキュリティ人材不足に陥ると、情報漏洩やサイバー攻撃に対するリスクが高まります。
もし事故が発生した場合、顧客や取引先からの信頼を失い、ビジネスに深刻な影響を与える可能性があります。そうした事態を防ぐために、情報セキュリティ人材の育成や確保は必須です。
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情報セキュリティ人材育成は継続的な実施が重要
デジタル技術の進展とともに、サイバー攻撃の手法や情報漏洩の原因も多様化しています。セキュリティ事故の過半数は人為的なミスで発生しているため、全社的に情報セキュリティリテラシーを向上させることで未然に事故発生を防ぎましょう。
情報セキュリティ研修は内容をアップデートしながら継続的に実施するのが最も効果的です。