ボトルネックの解消法とは?ビジネス事例・TOCもわかりやすく解説
生産性が思うように上がらない
PDCAが回らない
このようなときは、必ず根本的な要因があります。事業やプロジェクトの進行を阻害するこうした要因を「ボトルネック」といいます。
ボトルネックを特定し解決することで、ワークフローを滞りなく回し、生産性を上げることが可能になります。しかしボトルネックを解消する手順や方法を、適切に運用できている企業は多くありません。実際に有効な問題解決策を発見できず、お悩みの企業もあるのではないでしょうか。
今回の記事では、ボトルネックが生む問題点や具体例、TOC理論※を活用したボトルネックの特定と解消方法について詳細に解説します。ぜひ自社事業のボトルネックの特定と解消にお役立てください。
※TOC理論:業務フローやシステムにおいて最大の弱点となっているポイントを注視し重点的に改善することにより、全体のパフォーマンス向上を図る理論。
ボトルネックとは
ボトルネックとは、システムおよびプロセス全体の効率性やパフォーマンスを抑制する要素のことで、製造業・IT・ビジネスなど、さまざまな業界と状況において発生するものです。
はじめに、ボトルネックの意味と、ボトルネックにより生じる問題について解説します。
ボトルネックの意味
ビジネスにおけるボトルネックとは、一連の業務プロセスの中で、最も遅い部分や効率の低い部分のことで、プロセス全体の流れを妨げる要因をいいます。
ボトルネックの語源は、瓶の首の細くくびれた部分に由来します。瓶の首では流れが阻害され遅くなることから、ワークフローで流れが滞る部分をボトルネックと呼ぶようになりました。実際のビジネスシーンでは、ボトルネックがワークフローを妨げる要因となる人物を指す場合もあります。
いずれの場合も、ボトルネックが存在するとワークフロー全体のパフォーマンスが、その最も弱い部分に決定づけられてしまいます。そのため全体の生産性を改善するために、ボトルネックの解消が必要なのです。
ボトルネックで生じる問題点
ボトルネックが存在することにより、全体の生産性や効率性が大きく低下してしまいます。
具体的には、ボトルネックがあることで必要な作業が遅延したり、前後の工程のリソースが無駄になるなどの問題を引き起こします。工程の弱い部分でたびたび作業が滞るため、前後の工程ではリソースを活かしきれず、ロスが発生してしまうのです。
ボトルネックに対処せず放置すると、結果的に業務全体の品質を低下させてしまいます。
ボトルネックにより業務の品質が低下すると、製品が顧客の求める品質を担保できない、あるいは商品提供の期限に間に合わないなど、さまざまな支障が生じます。最終的には顧客満足度を低下させてしまいます。
業種別ボトルネックのケーススタディ
業種により、特定の要素が生産性や効率性のボトルネックとなることがあります。
「ビジネスにおける意思決定の遅れや不適切なプロジェクト管理」「管理プロセスの不備や遅延」「人的リソース不足やスキルの不一致」「ITシステムの性能制限やシステム障害」「製造業における設備の不具合や原材料の供給不足」これらは、業種ごとのボトルネックの例です。
自社事業に関連するボトルネックを理解すれば、自社の業務やプロセスのボトルネックを特定し、対策を立てる目安になるでしょう。ここでは、次の業種とシチュエーションにおけるボトルネックについて解説します。
ビジネスの現場でのボトルネック
ビジネスにおいては、組織内のプロセスや手順がボトルネックとなることがあります。意思決定の遅れや不適切なプロジェクト管理などがその例です。
典型的な例のひとつに、企画書・稟議書に対し、役職ごとに承認を得る決裁プロセスがあります。複数の上長による決裁印が必要など、決済や承認のプロセスが複雑過ぎると、承認を得るべきプロジェクト自体が遅れてしまいます。
どれほどよい企画でも、適切なタイミングで実施しなければ効果は半減してしまうかもしれません。意思決定の遅れや不適切なプロジェクト管理は、企業の業績が伸び悩む原因となってしまうため、改善を図る必要があります。
管理プロセスのボトルネック
管理プロセスの不備や遅延は、プロセスのボトルネックとなります。それらはチームの生産性を制限し、全体のパフォーマンスに影響を与えてしまいます。
経営管理におけるボトルネックとは、事業戦略に必要なことが困難になる原因のことです。必要なコミュニケーションが行われておらず、誤解や混乱が生じている場合や、事業推進上で必要な管理人材が不足している場合などが該当します。
例えば、同一プロジェクトについて部署間の情報共有ができていないケースや、管理側と現場との間で意思疎通が滞り、現場にプロジェクトの趣旨が伝わらないケースなどが考えられます。この場合は、意思疎通が困難な原因がボトルネックです。
管理側にボトルネックがあると、現場のプロジェクト遂行プロセスに遅延を引き起こすことも考えられるため、早急に解消しなければなりません。
人的リソースのボトルネック
業種や部署を問わず、組織の人的リソース上にもボトルネックが存在することがあります。
人的リソースの不足や当事者のスキルの不一致などがボトルネックとなり、プロジェクトや業務の進行を妨げる大きな要因です。適切な人員配置が行われていない場合や、必要なトレーニングが行われていない場合などがその例です。具体的にはオペレーションの人員配置に偏りがある場合や、新人が多く配置された現場で、指導できる先輩が少ない場合などが考えられます。
十分かつ適切な人的リソース配分が行われなければ、組織の生産性が低下し、事業成功へのブレーキとなってしまうでしょう。そのため人的リソースのボトルネックを早急に特定し、解消する必要があります。
IT・システムでのボトルネック
IT分野でのボトルネックとは、システム処理スピードや通信スピードを低下させてしまう原因・要因を指します。
多数の機器やシステムで工程が形成されるIT分野では、1ヵ所の不備により全体の処理速度が低下してしまうのです。IT分野のボトルネックとしては、次のものが挙げられます。
- データ処理能力の不足
- ネットワークの遅延
- セキュリティ問題
IT分野での原因特定は、上記から原因を特定したうえで、本質である「ホットスポット」を突き止める作業が行われることが特徴です。
IT分野における処理速度の遅延は、システム全体や事業そのものに影響をおよぼす恐れがあるため、迅速な対処が求められます。
製造業でのボトルネック
製造業におけるボトルネックとは、生産プロセスのうち生産効率を下げている工程のことです。
具体的には前後の工程に比べて進捗が遅く、作業が詰まってしまっている工程のことで、次のような特徴から見分けることが可能です。
- 作業が停滞し製造途中の品が蓄積している
- 稼働率が高い
- 作業時間が長い
- 問題・トラブルが多発している
稼働率が高いこと・作業時間が長いことは、ほかの工程のペースに追い付いていないことの証明です。またトラブルが多発する工程では、作業員に精神的な負担がかかり人為的ミスが発生しやすい傾向にあります。
製造業のボトルネックとしては、ほかにも設備の遅延や故障、原材料の供給不足などが考えられます。
製造業のボトルネックは、生産ライン全体の効率を下げ、製品の出荷を遅らせる元凶です。自社の売り上げが下がるだけでなく、市場への供給不足で経済にも影響を与える可能性があるため、早期の解消が求められます。
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TOCによるボトルネック分析の方法
ボトルネックを特定・分析し、改善するための枠組みとして、TOC(Theory Of Constraints)が広く用いられます。TOCを用いてボトルネックを分析することで、組織全体の生産性を最大化することが可能です。
TOCとは、ある業務のフローやシステムにおいて最大の弱点(制約条件)となっているポイントを注視し、重点的に改善することにより、全体のパフォーマンス向上を図る理論です。
ここからTOCを活用したボトルネックの解消について、次の内容で解説します。
TOCを用いたボトルネックの発見と特定方法
TOCはイスラエルの物理学者エリア・ゴールドラット博士により生産管理・改善の理論体系として提唱され、全体最適の考え方を広く産業界に適用した理論となっています。TOCが目指すところは、組織が利益を増やし続けながら、同時に無駄な在庫と経費を抑えることです。
TOCでは、例えば「システム内の全リソースのキャパシティを評価する」などのボトルネックの特定から解決までに行うべき手順を、フレームワークとして明確化しています。TOCのフレームワークでボトルネック(制約)を特定し、その制約を中心にシステムを再構築することで、全体のパフォーマンスの向上を図ることが可能です。
ボトルネックの解消ステップ
TOCで提示している、ボトルネック解消のための5つのステップは次のとおりです。
- ステップ① ボトルネックの発見・特定
- ステップ② ボトルネックを徹底活用する方法を考える
- ステップ③ ほかのプロセスをボトルネックに合わせる
- ステップ④ ボトルネックの能力改善
- ステップ⑤ 新たなボトルネックへの対応(1.からの繰り返し)
ステップ①でボトルネックを特定する際には、多面的に洗い出すことが必要とされ、安易に「人材不足」「設備不足」などと結論付けないことが重要です。また、プロセス滞留の原因として複数の要因が絡みあっている場合は、それぞれを検証し解決する最優先課題を決めなければなりません。
ステップ②でボトルネックを徹底活用するための準備として、ボトルネックが工程や事業に与えている影響を可視化すると同時に、工程内すべてのリソースのキャパシティを評価します。
工程全体のキャパシティを把握したら、ステップ③で前後の工程をボトルネックに合わせた稼働を行い、必要に応じてほかの工程のリソースをボトルネックに提供するなどの対策を実施します。ボトルネックそのものを根本的に改善するのが困難なケースが多いため、通常は前後の工程でカバーするほうが効率的です。
はじめからボトルネック自体の改善に投資せず、今あるリソースを最大限活かしてボトルネックをカバーするよう試みることがポイントです。
上記を実施したうえで、ボトルネック自体の改善が必要であれば、ここで初めてステップ④の人材・設備投資を行います。
ひとつのボトルネックを解決したら、解決の過程で新たに挙がった課題が次のボトルネックとなります。ステップ⑤で再度①~④の改善のプロセスを繰り返すことにより、組織やワークフローの継続的改善へとつなげられるのです。
ボトルネック解消のためのツールとテクニック
ボトルネックを解消するうえで、情報整理に各種ツールを活用することも有効です。
TOCのステップを効果的に実施するためには、現状と対策効果を可視化することが必要です。その際に、データ分析やプロセスマッピング、シミュレーションを行うツールを使用すると、対策効果の把握が容易になるほか、データをその後の方向性の判断基準にできます。
例えば、工程別の作業時間をグラフ化すれば、ボトルネックを特定しやすくなります。またガントチャートなどのツールを用いて生産スケジュールとリソースをリンクできれば、ボトルネック管理と進捗予測の効率化が可能です。さらにツールの分析機能を使用することで、ボトルネック解消への道筋を立てやすくなります。
ツールやテクノロジーを活用すれば、ボトルネックとなる原因を正確に特定し、解消に向けた明確な戦略を練ることが可能になります。
ボトルネックの解消効果とは
ボトルネックを解消することで得られる最大の効果は、組織全体の生産性と効率性の向上です。
ボトルネックの解消効果は、改善された業務プロセスや事業の業績に直接反映されます。このあと業務プロセスの改善効果と業績改善効果について、それぞれ解説します。
業務プロセスの改善
ボトルネックを解消することで、業務プロセスの流れをスムーズにし、作業の遅延と無駄を減らす効果を得られます。
ボトルネックの特定と解消をサイクル化することにより、各プロセス相互で進捗を把握できるため、作業の遅延を防げます。また、各工程で次に起こること・やるべきことを予測しやすくなるため、リソースを無駄にせず有効活用することも可能です。
工程間の透明性と予測可能性が高まることで、事業を推進するうえで精度の高い計画を策定でき、計画どおりに業務の品質を向上させることができます。
業績への影響
ボトルネックの解消は、全体のパフォーマンスと生産性の向上につながるため、企業業績に直接的に寄与することもできます。
効率的な業務プロセスへと改善され高い生産性が実現すれば、商品を市場へタイムリーかつ安定的に供給することが可能になるため、顧客信頼度と満足度が向上します。結果的に、リピート顧客や新規顧客の獲得サイクルが速まり、企業の持続的な成長につながります、
また、ボトルネックの解消により工程上のリソース配置が最適化されるため、運営コストの削減も可能です。
ボトルネックの最終的な解消効果は、事業収入の増加とコスト削減により、組織の収益力を向上させることです。
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「ボトルネック」に関するよくある質問(FAQ)
- ボトルネックという言葉はどのような状況で使うのか例文を教えてください。
-
ボトルネックという言葉が使われるのは、プロジェクトの進行が遅れる原因となっている特定の部分を指す場合で一般的に次のような状況で使用されます。
- プロジェクトの遅延は、材料の供給がボトルネックになっている
- プロジェクトを進めるうえで必要な人材が不足しており、遂行上のボトルネックとなっている
- 開発の遅れは、設計担当者と開発担当者の間で認識に差があることがボトルネックになっている
- サービスの導入には、費用がいちばんのボトルネックになりそう
- 広告からのCV率(成約率)が低下しているボトルネックは何でしょう?
業種や状況により異なる部分もありますが、おおむね「問題」「制約」「原因」といった意味合いで使われます。
- ボトルネックと同じような意味を持つほかのビジネス用語は何ですか?
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ボトルネックと同じような意味を持つビジネス用語には「制約」や「限界」などがあります。これらの用語は、主に全体の効率性やパフォーマンスを制限する要素を指す際に使われます。
ボトルネックの言い換えにはほかにも「律速」があり、作業の進み具合を決定づける要素といった意味合いで使われることがあります。
- ボトルネックになる人とはどのようなタイプですか?
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ボトルネックという言葉が特定の人を指す場合もあります。ボトルネックになる人とは、その人のスキルや能力が業務の進行を遅らせる、あるいは業務全体の効率を下げる可能性がある人を指します。
業務に必要なスキルや知識が不足している人、または作業速度がほかのチームメンバーよりも遅い人がボトルネックに該当します。
- ボトルネックを解消するための具体的な方法は何ですか?
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ボトルネックを解消するためのステップとして、はじめに工程が滞る原因を特定することが必要です。それからボトルネックを解消するための策を計画し、実行します。
ボトルネックの解消策としては、人員などのリソースの再配置、工程変更などのプロセス改善、新たな技術の導入などが挙げられます。
「制約理論(TOC)」というフレームワークを用いることで、改善対象と実施すべきプロセスを明確化できるため、ボトルネックを効果的に管理・解消することが可能です。
まとめ
業務プロセスのボトルネックを解消する効果は多方面におよびます。事業の業務フローが改善されるのみならず、顧客満足度と企業業績の向上にも寄与することが可能です。
ボトルネックには業種ごとの特殊性もありますが、いずれも特定と解消に共通のフレームワーク「制約理論(TOC)」を用いることで、解消する方向性を明確化できます。ボトルネックの特定や対策の効果測定を実施するうえで、ツールを活用し現状と対策効果を可視化することも効果的な方法です。
ボトルネックを解消し業務プロセスを改善するためには、制約する際に妥協しないこと、解消後は次のボトルネックの解消に向け改善を繰り返すことが大切です。ぜひ最適な手法で自社のボトルネックを解消し、業務プロセスと業績の改善を図りましょう。