PDCAサイクルの回し方とは?古いといわれる理由とメリット・事例を解説
「PDCAサイクル」は、多くの企業で使われる業務品質改善の一般的な手法です。一方で「古い」「時代遅れ」ともいわれ、ほかのフレームワークとの違いや効果的に回す方法、導入するメリットについて、気になる方も多いでしょう。
本記事では、PDCAサイクルの概要と実践テクニック、よくある誤解と問題点、他のフレームワークとの比較および成功させるポイントについて解説します。
PDCAサイクルの運用に成功した事例も紹介しますので、自社の業務品質改善にご活用ください。
PDCAサイクルとは何?
「PDCAサイクル」とは、「計画(Plan)」「実行(Do)」「チェック(Check)」「行動(Act)」の4つのステップから成る改善・問題解決のフレームワークで、本来は生産現場における生産プロセスや製品の品質向上のための考え方です。
始めに、PDCAサイクルの概要や重要性・目的、4つのフェーズの詳細について解説します。
PDCAサイクルとは
「PDCAサイクル」とは、「計画(Plan)」「実行(Do)」「チェック(Check)」「行動(Act)」の4つのステップから成る改善・問題解決のフレームワークです。これらの4つのステップをサイクルとして繰り返すことで、生産プロセスや製品の品質向上を目指す手法であり、日本の産業界に広く取り入れられています。
PDCAサイクルは、もともとは工業における品質管理の手法で「QCサークル活動※」の一部でした。QCサークル活動は、1950年代に米国統計学者エドワーズ・デミングにより提唱され、以降日本の工業界では、日科技連(日本科学技術連盟)を中心とした統計的品質管理が開始されています。
自動車産業を中心とした1970年代の日本工業界の振興は、QCサイクル活動とPDCAサイクルによる品質改善によりもたらされたといっても過言ではありません。
近年のPDCAは製造業のみならず、金融業やサービス業、マーケティング施策などにも適用され、運用方法も時代や業態にあわせて多様化しています。
※QCサークル活動:QC ( Quality Control・品質管理)のために、小集団を形成し、自主的に製品やサービスの質の管理・改善を行うこと
PDCAサイクルの重要性と目的
PDCAサイクルを繰り返し回す目的は、継続的な業務改善です。
PDCAサイクルによって、計画の段階で業務の方向性と優先順位が決まっています。個人の目標も明確になり、従業員は自主的に効率よく仕事を進めることが可能です。
さらに、現場の従業員1人ひとりが目標意識と課題を共有し、成功や失敗の要因を考えるように成長します。その結果、組織にナレッジを蓄積することが可能です。
PDCAサイクルによって、プロジェクトや製品の現状の課題や問題点を明確にできます。課題を改善しながらサイクルを繰り返すことで、業務品質と計画の精度を高め、組織の成長を図ることが可能です。
PDCAサイクルの各フェーズ詳解
ここで、PDCAサイクルの各フェーズ(P・ D・ C・ A)にどのような活動と目的があるのか、詳しく解説します。
P(Plan:計画)のステップ
「Plan(計画)」のステップでは、目標設定と、必要なリソースの確認、具体的な実行計画(アクションプラン)を作成します。
目標を共有する際に、誰が見ても把握できるよう、数値的な指標を用いて具体的・明確に設定することが求められます。5W2H(誰が・Who、いつ・When、どこで・Where、なぜ・Why、どのように・How、いくらで・How much)を意識して検討すると、具体的で明確な目標を設定することが可能です。
D(Do:実行)のステップ
「Do(実行)」のステップでは、アクションプランに基づいた実行をします。
実行フェーズで求められる行動は、遂行だけでなく「試行」も含まれます。計画が有効であったか、もし有効でなかった場合に代替手段はあるのかなども、実行段階で検証する必要があります。
具体的には、目標に対する進捗をデータとして収集し、計画どおりでない場合もそのように記録します。そのために進捗や経過は時間を図るなど、数値で把握することが必要です。
実行フェーズで別の方法を探りながら試行し、十分なデータとフィードバックを収集することで、次のサイクルに活かせます。
C(Check:チェック)のステップ
「Check(チェック・評価)」のステップでは、実行結果を評価します。
設定されたKPIにより、アクションプランと目標を達成できているか、パフォーマンスと進捗を測定・分析するステップです。
収集したデータをもとに、次のステップで進捗が良くない場合は原因を、目標を達成できている場合はその理由を分析し検証を行うため、客観的・定量的に評価を行うことが求められます。
A(Act:行動)のステップ
「Action(行動・改善)」のステップでは、評価結果に基づき、改善策を策定します。
評価で得られた気づきや課題に対し、具体的な修正を行い、次回のサイクルに活かす仮説を立てるのが、行動フェーズです。
良かった点はさらに伸ばせるよう次の計画に活かし、改善すべき点は改善案を次の計画に反映します。改善の見込みがなければ、次回のサイクルを開始せず中止する決断も必要です。
PDCAサイクルを上手に使うためのテクニック
PDCAサイクルを上手に活用するためには、目標やKPIの設定の仕方、定期的なレビューや調整の実施が重要です。
ここからは、PDCAサイクルを効果的に活用するための実践的なテクニックを紹介します。
SMART目標の設定
PDCAサイクルを効果的に回すためには、明確な基準での目標設定が必要です。「SMARTの法則」を用いれば、明確な設定基準に基づき目標を設定できます。
SMARTとは、次の頭文字をつなげた言葉で、目標設定の基準を表わすフレームワークです。
- 具体的に(Specific):誰が見てもわかるよう明確かつ具体的に
- 計測可能な(Measurable):達成度合いを定量的に測れる
- 達成可能な(Attainable):願望ではなく現実的な内容で
- 関連性のある(Relevant):会社の目標に関連しているかどうか
- 時間制限のある(Time-bound):いつまでに達成するかの期限が明確である
目標設定が曖昧では、改善のための有効なデータ収集と検証が行えません。SMARTの法則で目標を立てれば、達成度合いを数値で把握できるため、改善に向けた有効なデータを収集でき、適正な評価による改善策を策定できます。
KPI(重要業績評価指標)の選定
SMART法則で設定した目標を達成するためには、中間目標となるKPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、目標を達成する過程で達成度合いを計測・監視するために設置する数値指標を指します。目標達成のために重要な指標をKPIに設定することで、評価の明確な基準ができます。定量的にKPIを測定し評価すれば、チームの誰が見ても進捗が明らかで、状況を容易に共有することが可能です。
PDCAサイクルが惰性になり、タスクがマンネリ化しそうな場合にも、KPIにより進捗を可視化できれば目標を再確認でき、従事する人のモチベーションを維持・向上できます。
定期的なレビューと調整
PDCAサイクルを効果的に回すためには、進捗と方向性について、定期的に評価・調整を行う必要があります。
設定された期間ごとにKPIの評価を行いますが、評価期間はなるべく短く設定することが望ましいです。評価の間隔が短ければ、方向性が誤っていた場合にも迅速な軌道修正や調整が可能です。
軌道修正や調整の必要性を判断するためには、チームの各担当同士で積極的なコミュニケーションが求められます。どこに、どれくらいの調整が必要か、多方面から見解を求めることで、もっとも効果的な対応を選択できるためです。
スタッフ同士の密なコミュニケーションで、迅速に対応を決定・実施し、次のステップへ移行することが、PDCAサイクルを有効に回す秘訣です。
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PDCAのよくある誤解と問題点
PDCAサイクルの効果や有用性については、誤解が多いことも事実です。ここでは、PDCAサイクルの注意点とよくある誤解について検証します。
PDCAの注意点
PDCAの効果を出すためには、4つのフェーズが適切に行われているか確認することが重要です。適切に実施されていなければ、かえって業務効率を低下させる恐れがあります。
例えば、結果を早く出したいために、検証をおろそかにしてしまうと、改善につなげられず、同じ失敗を繰り返します。客観的な基準で適切に評価を行い、現状を把握することは、プロジェクトの方向性を誤らないために必須です。
計画の時点で過剰な目標を設定している場合や、改善案に実現性がない場合も、実行でつまずきサイクルがストップしてしまうため、注意する必要があります。
PDCAサイクルは時間がかかる?
刻々と変わる現代のビジネス環境において、「PDCAサイクルは時間がかかりすぎる」といわれることがあります。
理由として、PDCAサイクルでは計画に時間をかけすぎて、実行が遅れるケースがあること、評価に時間がかかることが挙げられます。PDCAによる改善を実施するためには、評価に十分な時間をかけて取り組むことが多く、改善まで時間がかかりがちです。
近年はニーズや価値観が刻々と変化しており、企業は変化に応じたビジネスモデルのアップグレードを迫られています。PDCAに時間をかけてしまうと、改善が完了する頃には市場のニーズが変わっている可能性があります。
PDCAサイクルを迅速に回すためには、チームで連携して各フェーズのタイムマネジメントを徹底することが重要です。
PDCAサイクルはすべてのプロジェクトに適用可能?
PDCAサイクルは、もともと製造業の品質管理手法であるため、異なる産業構造では、必ずしも最適な改善フレームワークではないとする意見もあります。
PDCAサイクルでは、計画と評価に時間がかかるケースが多いです。そのため、変化の速い情報通信産業やシステム開発などの業界では、「アジャイル」や「OODAループ」のような、計画を立てずに即時仮説を立て実行するフレームワークが適しています。
一般に、外部環境との相互作用が多い業種では想定外の事態が起きやすく、OODAループを取り入れることも有効です。逆にPDCAサイクルが効果的に機能するのは、中長期的な目標へ向けてじっくり取り組めるような環境です。
プロジェクトによっては、PDCAサイクルよりも別のフレームワークが適している場合もあり、ケースバイケースの選択が求められます。ただし、もともとアジャイルで業務を管理していても、PDCAサイクルで時間をかけて計画・検証する必要もあります。
複数のフレームワークを柔軟に使い分け、併用するか、もしくはPDCAサイクルの運用を柔軟・迅速に行うか、いずれかの対応が必要です。
PDCAサイクルの失敗事例は?
ここで、PDCAサイクルに多く生じる失敗事例を紹介します。
- 計画時に設定した目標が高すぎる
- 計画に時間がかかり過ぎ、実行時には市況が変わっている
- 評価と改善の間でプロセスがストップしている
- 改善を急ぎすぎて評価をおろそかにしてしまう
- PDCAサイクルを1回回しただけで終了してしまう
大きすぎる目標は、モチベーションの低下とサイクルの断絶を招きます。最初から大きな目標で達成しようとせず、小さな目標に分解したPDCAサイクルを繰り返し回せば、同じ目標に対する達成確率を高めることが可能です。
計画に時間がかかり過ぎても、市況が変わってしまい、製品やサービスを市場へリリースするタイミングを逸してしまうことがあります。そのため、各フェーズのタイムマネジメントを徹底する必要があります。
そのほか、評価フェーズでサイクルが滞らないよう、あらかじめ明確な評価指標を設けることも重要です。評価指標が明確であれば、サイクルを急いで評価をおろそかにすることもなく、着実に改善へとつなげられます。
PDCAサイクルを1回回して成果が出なかった、あるいは効果が出たからそれでよしとせず、繰り返し回すことも大切です。大きな成果と組織の持続的成長のためには、短期での成果の有無にかかわらず改善のサイクルを続けましょう。
PDCAサイクルと他のフレームワークとの比較
業務プロセス改善や品質改善のフレームワークは、PDCAサイクル以外にもいくつかあります。ここでは、PDCAと、その他の著名なフレームワークを比較し、長所と短所を解説します。
フレームワーク | フェーズ | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
PDCAサイクル | ・計画(Plan) ・実行(Do) ・チェック(Check) ・行動(Act) | ・目標や方向性が明確 ・中長期的改善に適している | ・計画・評価に時間がかかることがある |
アジャイル | ・計画 ・設計 ・実装 ・テスト | ・運用に柔軟性がある | ・ビジョンが不明だと脱線する可能性がある ・長期プロジェクトの先が予測しにくい |
DMAIC | ・定義(Define) ・測定(Measure) ・分析(Analyze) ・改善(Improve) ・管理(Control) ※シックスシグマにおける改善手法 | ・費用と時間の無駄を排除できる | ・運用の仕方によっては柔軟性を欠くことがある |
OODAループ | ・観察(Observe) ・状況判断(Orient) ・意思決定(Decide) ・行動(Act) | ・迅速な意思決定ができる ・運用に柔軟性がある | ・大きな組織への適用は不向き ・学習の蓄積・共有が困難 |
OKR | ・達成目標(Objectives) ・主要な成果(Key Results) | ・組織と個人に一体感が生まれる ・イノベーションを生む効果がある | ・価値観・ビジョンを浸透させることが困難 ・全階層レベルでの意思疎通が必要 |
PDCA vs DMAIC
DMAIC(ディーマイク)とは「定義(Define)」「測定(Measure)」「分析(Analyze)」「改善(Improve)」「管理(Control)」というステップでプロセスの改善を行う手法です。QCにおけるPDCAサイクルと「シックスシグマ」におけるDMAICは、同じ位置づけのフレームワークです。
「シックスシグマ」とは、高品質・低価格の日本製品に対抗すべく、米国モトローラ社によって1980年代に体系化された品質改善・管理手法です。1990年代GE(General Electric:ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウェルチが取り入れたことで全米中に普及しました。
シックスシグマのメリットは費用と時間の無駄を排除できること、デメリットは、導入方法を誤り無駄を排除しすぎた場合に、柔軟性を欠いてしまうことです。
日本のQC活動におけるPDCAに相当する手法を、シックスシグマではDMAICと呼びます。DMAICは以下の頭文字です。
- D : Define (定義)取り組むべき課題を定義する
- M : Measure(測定)現状を把握する
- A : Analyze(分析)根本原因を特定する
- I : Improve(改善)改善策を検討する
- C : Control(定着)成果を確認し定着を図る
PDCAとDMAICの相違点は、PDCAがもともと現場主導のボトムアップ型、DMAICがトップダウン型である点ですが、近年は組織のフラット化と各手法の進化により、差異がなくなりつつあります。
取り組む事業やコラボレーション相手により、採用する手法を決定するとよいでしょう。
PDCA vs アジャイル
「アジャイル」はソフトウェア開発手法の1つで、開発対象を小さな機能に分割し、部分的な完成を繰り返していくものです。
機能ごとにPDCAを回しながら開発を進め、顧客の要望や変更に対し、柔軟に対応できることがアジャイルのメリットです。一方のデメリットは「走りながら考える」性質のため、ビジョンが不明のまま脱線しやすいことです。また、途中の段階が見えないことから、熟練者でないと、長期プロジェクトの予測が付きにくい場合もあります。
アジャイルとPDCAサイクルとの相違点は、サイクルの機敏性と柔軟性です。アジャイルでは計画よりも変化への対応を重視し、柔軟に計画を変更しながらプロジェクトを進めます。
システム開発以外のPDCAサイクルにも、アジャイルの柔軟性を応用すれば、サイクルのスピードアップを図ることは可能です。
PDCA vs VUCA
「VUCAと呼ばれる現代にPDCAサイクルは適さない」といわれることが増えました。
VUCAとは、Volatility,、Uncertainty、 Complexity、 Ambiguityの頭文字を取った、予測困難な状況を表す造語です。IT技術の急速な進歩や市場の国際化、パンデミックなどにより、市場環境が急速に変化している状況を指します。
VUCAの状況下では、PDCAサイクルよりも「OODAループ」が適しているといわれます。OODAループとは「Observe(観察)」「Orient(判断)」「Decide(決定)」「Act(実行)」の4つのフェーズを短いサイクルで回すことで、迅速な意思決定と行動を可能にする業務改善手法です。
OODAループとPDCAサイクルの役割と目的は異なります。OODAループは、変化や競争の激しい業態において、迅速な意思決定・実行が求められる場合に有効です。一方、PDCAサイクルは、プロセスの最適化や中長期的な品質改善を目的とする場合に適しています。
両者は併用することも可能なため、戦略的かつ慎重にプロジェクトを管理したい場合は、併用するとよいでしょう。
PDCA vs OKR(Objectives and Key Results)
「OKR(Objectives and Key Results)」とは、目標と主要な結果という意味の呼称です。
OKRでは「達成目標(Objectives)」とその達成度を測る「主要な成果(Key Results)」を設定し、企業の目標と従業員の目標をリンクします。全従業員が企業と同じ方向を向いて重要課題に取り組み、目標を達成するための管理方法がOKRです。
OKRの特徴は、個人と企業の目標をリンクさせ、目標設定と進捗確認、評価を高い頻度で繰り返すことです。目標には敢えて容易に達成できないストレッチゴールを設定し、達成よりも方向づけと共有を重視する点が、PDCAサイクルとは異なります。
OKRは、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めることで能力を発揮させ、イノベーションを生み出す目的で活用されます。両者の使い分けは、計画的改善を目的とする場合はPDCAサイクルを活用し、イノベーションを生み出す場合にはOKRを活用するのが一般的です。
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PDCAサイクルを成功させるポイント
PDCAサイクルのメリットを活かし、改善を成功させるためには、チームメンバーとのコミュニケーションと、ファクトに基づく意思決定が必須です。
ここでは、PDCAサイクルを成功させるポイントについて詳しく解説します。
チームメンバーのコミュニケーション
PDCAサイクルを迅速かつ効果的に回すためには、チーム内のコミュニケーションが鍵を握ります。
適切な目標を設定するためには、意見交換を行いやすいフラットな関係性が求められます。組織の意思決定がトップダウンの場合は、方向性が誤っていても修正することが困難ですが、組織内でフラットなコミュニケーションを取っていれば、方向性を修正できます。
オープンでフラットなコミュニケーションを取れるチームでは、情報の伝達と共有が迅速で、ブレインストーミングなどの手法を用いて、メンバーから良いアイデアを抽出することも可能です。
新しいアイデアを実行に移す速度や、次のフェーズへ移行するスピードにも、チームコミュニケーションの質が影響を及ぼします。オープンでフラットな組織を目指すことで、スピーディーな意思決定と改善が可能になり、PDCAサイクルを高速で回すことができます。
ファクトに基づく意思決定
PDCAサイクルの成功には、データや事実に基づいた意思決定が重要です。
そのためには、計画フェーズで適切なKPIを設定し、実行フェーズで客観的な数値データを収集する必要があります。数値データを測定することで、実行・試行の成功、失敗に対し、仮説を立て検証するプロセスにおいて、主観による判断の偏りをなくすことが可能です。
データに基づく判断で方向性を決定すれば、適切な改善案を導き出すことができ、次のサイクルの計画立案もスムーズに進みます。
サイクルのスピードを速め、データを効率的に活用するためには、デジタルツールを利用することも1つの方法です。データの処理と共有方法をデジタル化・自動化することで、個人的な主観を排除できるほか、業務の効率化が可能です。
PDCAの成功事例
これまで解説してきたポイントを押さえてPDCAサイクルを運用すれば、業務改善をスピーディーかつ柔軟に成功に導くことが可能です。
最後に、効果的なPDCAサイクルをイメージできるよう、業務改善に成功した3社の事例を紹介します。
トヨタ自動車株式会社
「トヨタ自動車株式会社」は「トヨタ生産方式」で海外でも知られています。
トヨタ方式のPDCAサイクルは、計画フェーズで「ムリ・ムダ・ムラ」を徹底的に排除しています。そして実行フェーズでは、必要なときに必要なだけ生産する「ジャストインタイム」を導入。異常時に生産ラインを自動で停止させるシステムを導入し、不良・手直しの無駄を排除しています。
評価フェーズでは、不良品の検知や問題の兆候が見られた際に、稼働を停止し現場従業員と管理者とが一体となって、問題の検証を実施します。そして改善フェーズでは、現場ごとの従業員が共同で「改善提案」を行い、可能なものからすぐに実施する迅速さが、同社の改善の特徴です。
従業員による現場目線の提案から始まった改善には、24時間365日のカスタマーサポート、迅速なトラブルサポートや修理サービスなどがあります。
トヨタ自動車は生産ラインだけでなく、組織改革にも独自のPDCAサイクルを適用することで、世界の先端技術を開拓し続けています。
(出典:トヨタ自動車)
株式会社良品計画
「無印良品」の親会社である「株式会社良品計画」では、PDCAサイクルの継続により、業務マニュアルの品質向上に成功しています。
ライバル店の出現により業績が落ち込んだ同社では、業務の属人化による業務品質のムラを解決するために、PDCAサイクルを開始。まず計画フェーズで職種ごとの業務内容のマニュアル化に着手し、全従業員がいつでもマニュアルを参照できる仕組みづくりを始めました。
そしてマニュアルに従い業務を実行しながら、感じたことや気づきを社内ネットワークに挙げ、共有することを促します。挙がった課題や良かった点を、その都度評価・改善するサイクルを高速で同時進行させ、マニュアルの完成度を高めました。
同社では改善提案を定着させるために、比較的業務の少ない時間帯を割り出し、改善提案の時間と定めたうえで、提案シートを簡略化。さらに提案件数をグラフ化することで、従業員間の競争意識を高めるなどの施策を実施したそうです。
現場の声と知恵を吸い上げる良品計画のマニュアル「MUJIGRAM」は、ほぼリアルタイムで更新されます。同社では、全従業員がPDCAサイクルを自分事として取り組み、小さな改善を随時重ねた結果、赤字38億円からのV字回復を遂げています。
(出典:株式会社良品計画)
ソフトバンクグループ株式会社
「ソフトバンクグループ株式会社」は、実行力を重視した独自の高速PDCAサイクルを導入し、業務改善に成功しています。
同社のPDCAサイクルは、計画フェーズで大きな目標を立てた際に、達成するための小さな目標もあわせて立てることが特徴です。実行フェーズで複数の施策を並行して実施することで、比較検討の効果を向上させています。
個人目標を含む小さな目標に対しては、毎日・毎週・毎月のペースで検証を行い、うまくいった点と改善点の洗い出しを実施。そして翌日の行動から改善を実施する、短いサイクルでPDCAを回します。改善フェーズでは、これまで取り込んだ中で特に効果の高かった方法を、さらにブラッシュアップするなどの手法で、サイクルの効果をより高める点も特徴的です。
個別のPDCAにより、従業員の自発的なアイデアや取り組みを促す同社は、業務改善により「4,513人が1ヵ月で処理できる仕事量」の削減に成功。創出したリソースを新規事業へ投入するとともに、企業や自治体へDXノウハウを提供しています。
(出典:ソフトバンクグループ)
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「PDCA」に関するよくある質問(FAQ)
- PDCAサイクルは時代遅れなのですか?
-
PDCAは1950年代の工業最盛期に提唱された手法であるため、VUCAかつ産業構造の変化した現代には適さないといわれることもあります。
アジャイルやOODAループなどの新しい手法は、変化や競争の激しい業態において、柔軟かつ迅速な意思決定・実行が求められる場合に有効です。一方、PDCAサイクルは、品質改善やプロセス最適化、中長期的な改善を目的とした場合に適しており、現代でも有効な手法です。
近年では、PDCAサイクルを自社独自の適用方法で運用し、改善に成功する企業も増えています。
- 「PDCAサイクルを回す」を言い換えるならどのような言葉がありますか?
-
PDCAサイクルの言い換えの例として、次の言葉が挙げられます。
- STDLサイクル:「観察する」「考える」「実行する」「学ぶ」というサイクル。最初に計画して、変化に対してその都度適応していくような作業に用いられる。
- シックスシグマ:統計学を用いて定量的に分析し、品質管理改善を行う手法。リターンを明確に数値化して根拠を示す場合に有効。
- PDCAサイクルとは、簡単に説明すると何ですか?
-
PDCAサイクルとは、計画を立て、実行し、その結果を確認・分析し、改善する4ステップを繰り返すことで、業務プロセスの品業務プロセスや製品の品質向上を目指す手法です。
「サイクルが遅い」「時代遅れ」と誤解されることもありますが、現在でもプロジェクトや状況によっては有効で、他のフレームワークとの併用でメリットを活かすことができます。
- 教育でのPDCAサイクルはどのように適用されますか?
-
学校の教育現場では、教育課程や指導計画を立てる際にPDCAサイクルを活用します。
- Plan:授業の目標や内容、方法を構想し、授業プラン(扱う内容や進度、教え方など)を決める
- Do:授業を行う(授業の記録を取り、生徒のノートやワークシートを収集する)
- Check:試験結果や授業の記録を整理・分析し課題を洗い出す
- Action:指導要綱や授業プランの見直し
教育者が自己の授業を振り返りながら、PDCAサイクルを回し、授業を継続的に評価・改善します。
まとめ
PDCAサイクルを適切に運用することで、業務プロセスを中長期的に改善することが可能です。先の見えない現代市場では、アジャイルやOODAループなどの高速で柔軟なフレームワークのほうが有利といわれますが、PDCAも運用次第で高速・柔軟に回すことができます。
PDCAサイクルを継続的に回すことで、組織の持続的な成長が可能です。PDCAの継続と迅速な意思決定の両方を実現するためには、チームワークと定期的なフィードバックが欠かせません。
本記事で紹介したポイントを参考に、ぜひPDCAサイクルで自社の業務プロセス改善を実現しましょう。