CSR(企業の社会的責任)とは?取り組む意義と方法・活動事例を紹介
企業の社会的責任「CSR(Corporate Social Responsibility)」について関心が高まっています。世界の企業が取り組むSDGsと関連することもあり、自社の経営指標にCSR活動を組み込む企業が増えました。
その一方で、社会的責任の範囲や企業収益との両立性、具体的な取り組み手法がわからず、導入に迷う企業も多いようです。
今回の記事では、CSRの意義や目的、評価指標、具体的な活動と取り組み事例について解説します。CSRの未来についても言及しますので、自社のCSR活動の方針決定にお役立てください。
CSR(企業の社会的責任)とは
CSR(企業の社会的責任)とは、企業は社会に対し果たすべき責任があるという考え方のことで、原点は20世紀の社会的な問題や倫理観にあります。
ここでは、CSR(企業の社会的責任)の定義と歴史について解説します。
CSRの定義
CSRとは、企業が社会に対して果たすべき責任のことです。企業は経済的な利益を追求するだけでなく、社会的な存在として責任を果たす使命があるという考え方で、古くは近江商人の「三方良し」(買い手良し、売り手良し、世間良し)の哲学も、広義のCSRといえます。
CSRでいう社会的責任とは、次の項目に対して負うものとされます。
- 企業の持続可能性
- 環境保護
- 従業員の人権・福祉
- 地域社会への貢献
CSRをさらに厳密に定義した規格に、スイスの国際標準化機構(ISO)が2010年に定めた「ISO26000(社会的責任に関する規格)」があります。ここでは、企業と組織が基本とすべき「社会的責任に関する7つの原則」を次のように提示しています。
- 説明責任
- 透明性
- 倫理的な行動
- ステークホルダーの利害の尊重
- 法の支配の尊重
- 国際行動規範の尊重
- 人権の尊重
2010年以降は、ISO26000に準拠したCSR活動を実施する企業が多くなりました。
CSRと持続可能性を指す「サスティナビリティ」との違いは、サスティナビリティ自体に企業の責任はない点です。ただし企業がCSR活動を行うことでサスティナビリティに貢献できるため、2つは深く関連しています。
また企業が遵守すべき法令・社会的規範を表わす「コンプライアンス」との違いは、CSRがさらに一歩踏み込んで、企業が社会の利益に貢献することを責任としている点です。
CSRには、ステークホルダー(利害関係者)との相互作用を重視することで、社会的な価値創造を追求する概念があります。企業が持続的に成長するためには、利益を求めることと同程度に、社会の信頼を得ることが必要です。地域や社会に貢献し信頼度を上げることは、結果的に企業価値を高めることにつながります。
CSRの歴史と発展
CSRの基盤は、20世紀の社会的な問題や倫理的な考え方の変化にあります。
日本におけるCSRは、戦後の高度成長期を経て、公害問題に対する企業責任の追及意識が高まったことが始まりです。その後1980年代のいわゆるバブル期には、メセナ(文化支援活動)やフィランソロピー(社会貢献)が脚光を浴び、日本経済団体連合会(経団連)が打ち出した「1%クラブ」(経常利益の1%を社会貢献活動に充てる)などの活動が盛んになりました。
1992年リオデジャネイロで開催された「地球サミット」以降は、大手企業を中心に環境問題関連のCSR活動が広がっています。同じ時期にグローバリゼーションにともなう人権、貧困、紛争、差別といった問題も国際的に議論され、「持続可能な発展」「サスティナビリティ」という概念もこの頃に生まれています。
2000年以降は大手企業による相次ぐ不祥事により、法令順守の流れが加速した時期で、CSRが企業の経営戦略や持続可能性の一部として取り入れられたのもこの頃です。2003年には主要国首脳会議「エビアン・サミット」でCSRが経済課題に盛り込まれたこともあり、2003年はCSR元年と呼ばれるようになりました。
その後2010年にCSRの国際ガイドラインとなる「ISO26000」が発行され、2015年に国連によりSDGsが採択されたことで、現在のCSRの下地が完成しています。
CSR活動はバブル崩壊やリーマンショックなどの経済危機で下火になった時期はあったものの、世界的な潮流として着実に進行しています。
CSRの意義と目的
企業はCSR活動を行うことで、ステークホルダーや社会に対する自社の信頼性と、企業価値を高めることが可能です。
ここでは、企業がCSR活動を行う理由と、CSRが社会と企業に与える影響について解説します。
企業がCSRを行う理由
企業がCSRを行う理由のひとつは、自社が法や規制・社会的規範を遵守していることを社会に示すためです。企業は不祥事を防止し健全な企業運営を行うために、内部や外部のさまざまなチェック機能を設けています。チェック機能強化の取り組みを社会に開示することにより、自社の社会信用性を高めることが可能です。
企業のCSR活動は同時に、経営者の倫理・価値観に基づく意思と、社会への貢献意識を表す手段でもあります。自社の活動を社内外へ開示し、活動への参画者を広く募ることで、企業活動が社会へ与えるインパクトが大きくなります。社内では、企業理念・価値観とCSR活動の関連について従業員教育を実施することにより、社内の社会貢献意識を高めることが可能です。
企業がCSR活動を行う理由として、ステークホルダーである顧客や従業員の要求に応えることで、企業の信頼性を確保し競争力を高める目的もあります。
社会貢献をしている企業で働くことで、従業員はモチベーションが高まり、自社への信頼と愛社精神が向上します。さらにCSR活動をしている企業は、求職者からも選ばれるため、企業には連鎖的に生産性の高い人材が増えるのです。
社会と企業に対するCSRの影響
CSR活動を実施することで、企業は社会的課題の解決および、環境保護へ寄与することが可能です。
一例として、積極的に雇用を創出すれば地域が活性化されます。地域が活性化されれば、地域での企業イメージを向上させることも可能です。また企業が環境保護活動を実施すれば、幅広いステークホルダーから支持や支援を得られる可能性が高まります。
環境負荷の低い企業活動や、雇用創出などのステークホルダーへの利益提供などを行うことで、企業イメージを向上させ、企業価値を上げることが可能です。その結果、企業は地域や社会と共存関係となり、持続可能なビジネスモデルを築くことが可能になります。
CSR活動が浸透すると、企業とステークホルダー・社会との間で対話が活発となるため、相互の共存状態を築けることが予測できます。
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CSRの具体的な活動
企業のCSR活動には、大きく分けて次の3種類があり、自社の企業規模や事業内容により取り組む内容を選択することが一般的です。
ここでひとつずつ解説します。
環境保護への取り組み
環境保護へ取り組むCSR活動の例として、次のものが挙げられます。
- エネルギー効率の向上
- 再生可能エネルギーの利用
- 排出物の削減
- 廃棄物管理の改善
企業がエネルギー効率を向上させることで、使用するエネルギーを削減することが可能です。さらに限りある地球上の資源を枯渇させないために、企業が再生可能エネルギーのみを使用する取り組みもあります。
また工場から排出される有害な汚水や煙を削減したり、リサイクル可能な素材のみを原料に使うといった取り組みも、企業による環境保護CSR活動の一例です。
企業によっては、植林などを実施し自然環境の再生に取り組むなど、企業ごとの事業内容や得意分野に合わせ、異なる取り組みを実施しています。
社会貢献活動
社会貢献に関するCSR活動として、次のものが挙げられます。
- ボランティア活動による地域への支援
- 知識やスキルの教育・指導による支援
- 社会的弱者への支援
企業がボランティア活動を主催、あるいは従業員が地域のボランティア活動に参加するなどの取り組みは、企業のCSR活動として一般的です。
また、自社のノウハウを社会に活かすために、従業員による自社技術の指導を行う事例もあります。人的支援以外にも、基金などを設立して公共施設・福祉施設へ金銭的支援を実施する企業も見られます。
こうした文化活動を含む各種指導や支援活動は、企業が目に見える形で地域を支援でき、関係者を自社のファン化しやすいため、CSR活動が活発になる以前から比較的多く実施されていました。
企業倫理とガバナンス
「ガバナンス(コーポレートガバナンス)」とは、企業で公正な判断と運営が行われるよう、監査と統制を行う仕組みのことです。ガバナンスにかかわるCSR活動には、次のものがあります。
- 内部統制体制の構築と強化
- コンプライアンスの徹底
- 監査体制の整備
- コーポレートガバナンスの社内徹底
- ステークホルダーとの対話およびパートナーシップの構築
具体的な活動としては、企業の目的達成に必要なルールと仕組みを適切に運営できるよう整備する「内部統制」が挙げられます。取締役会などの構造見直し、リスクの洗い出しなどがこれに該当します。
また社内にコンプライアンスを徹底することで、従業員による不正を予防する活動も、コーポレートガバナンスの取り組みのひとつです。具体的には、社内のリスクを洗い出し、企業の行動規範を策定、研修などの従業員教育を行うことです。
さらにコンプライアンスに基づく倫理的な経営を行うために、内部・外部の監査機関の設置、監査項目や実施計画の作成を実施します(社外取締役・社外取締役の設置など)。そして経営の透明性を確保するため、監査体制について社外へ情報開示を行うところまでが、一連のコンプライアンス活動です。
コーポレートガバナンスを社内の各従業員へ浸透させるために、行動規範を作成し、従業員の意思決定と行動が規範に準拠しているかどうかの判断基準も明確化します。
ガバナンスに関するもうひとつのCSR活動は、ステークホルダーとの対話およびパートナーシップの構築です。ステークホルダー(利害関係者)には投資家や株主、取引先、従業員が含まれ、企業との協働・共生関係を構築することで双方の成長と発展を図ります。株主総会で株主の意見に耳を傾けることも、こうした対話の一例です。
CSRの戦略的取り組み
かつては本業以外のプラスアルファと捉えられることの多かったCSR活動ですが、近年は経営戦略として取り組む企業が増えています。ここではCSRを戦略化する取り組み手法を、次の観点から解説します。
事業戦略に組み込む方法
CSRを事業戦略に組み込む手法は、企業により異なります。
一例として、CSRをビジネスモデルの一部として統合する方法があります。この場合は、自社ビジネスと関連のある社会課題の解決に取り組むケースが多く、社会貢献が可能な自社商材を開発するなどの事例があります。例えば発展途上国へワクチンを配布するための資金調達手段として、証券会社が「ワクチン債」を開発するといった活動です。
また、顧客ニーズを満たす商材開発を実施するなど、市場トレンドに合わせたCSR戦略を構築する企業もあります。
従業員が業務の一環として参画するCSRプログラムを考案・実施する企業も増えています。福祉施設への支援活動、地域のボランティア活動、地域に活かせる自社ノウハウの直接伝授といった活動を行う企業も少なくありません。
こうしたCSR戦略を自社の企業理念とバリューに沿って策定することで、地域や社会を巻き込む活動が可能になります。
企業価値の向上
かつてはコストと捉えられていたCSR活動ですが、近年は活動を通じ、戦略的に企業価値の向上を図る企業が増えました。
昨今はCSR活動が長期的な持続可能性を持つことで、企業の価値創造が実現できるとの考え方へ変化しています。企業が環境保護活動やステークホルダーとの協働活動を行うことで、社会からの信頼性が増すため、事業の長期的成長が担保されやすくなります。
CSRにより企業のブランドイメージが向上すれば、顧客の忠誠心を獲得することも可能です。近年の社会のトレンドとして、環境や社会に貢献する活動を支援したい、自身も参画したいと考える人が増えています。こうした背景から、企業がCSR活動を実施することで、消費者からの理解と協力を得やすくなっています。
CSR活動は投資家や株主からの信頼構築にも寄与するため、活動を通じて投資を促すことも可能です。
企業はCSR活動を通じて企業価値を高められるため、信頼性と収益を同時に向上させることが可能になります。
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CSRの評価と報告
企業が実施しているCSR活動を社会へ公示する方法には「CSR報告書」やソーシャルメディアなど、複数の手法を用いることが一般的です。また、社会が企業の活動を評価する指標も複数存在します。
ここでは、企業のCSR活動の報告方法と活動の評価基準・ガイドラインについて解説します。
CSR活動報告の方法
企業のCSR活動には、適切な情報開示と透明性の確保が求められます。
株主などに対しCSR活動を開示する報告方法としては、主に「CSR報告書」「統合報告書」や「サステナビリティレポート」などが用いられます。ただし選択するフレームワークによっては多大な情報量となるため、一般には参照されにくいことも事実です。
広く一般にCSR情報を開示する方法としては、ソーシャルメディアやウェブサイトを活用した情報発信も増えています。近年は多くの企業ホームページに、自社のCSR活動報告やSDGsへの取り組みがリンクされることも増えました。企業の中にはスマートフォン使用層に向け、CSR活動やSDGsにまつわるショート動画を配信する所もあるなど、CSR活動の開示手法は多彩化しています。
CSR評価基準と国際的なガイドライン
CSRの評価方法とされる国際的なガイドラインやフレームワークには、次の指標が挙げられます。
ガイドラインとフレームワーク | 概要 |
---|---|
GRI(Global Reporting Initiative)による 「GRIスタンダード」 | ・サスティナビリティの国際基準と情報開示の枠組み ・「サスティナビリティ報告書」の基準項目 |
ISO(International Organization for Standardization )による 「ISO26000」 | ・主に工業分野における国際規格 |
CDP(Carbon Disclosure Project) | ・企業活動が環境に与える影響の評価基準 ・企業・組織の格付けも公表 |
CDSB(Climate Disclosure Standards Board) | ・企業の気候変動情報の開示基準 |
IIRC(International Integrated Reporting Council)による 「統合報告」 | ・環境保全 ・地域貢献などの非財務情報を組み入れた企業の情報公開フレームワーク ・GRIが母体 |
SDGs(Sustinable Development Goals) | ・2030年までに達成すべき持続可能な開発目標 |
企業によって上記以外に、人権関連の行動指針などを加える場合もあります。
企業のCSR活動に対する評価の判断基準としては、各種のランキングがあります。CSRの優良企業ランキングのうち、東洋経済新報社による「CSR企業ランキング」は、第三者機関による調査としては国内最大規模のため、参照するとよいでしょう。
世界的なランキングには、持続可能な企業を評価した「Global 100 Index (世界で最も持続可能な企業100社)」があります。世界経済フォーラム(WEF)の年次総会「ダボス会議」において、持続可能性を評価された企業100社を発表したものですが、事実上のCSR優良企業として参照されています。
CSRに積極的に取り組んでいる企業事例
ここで企業のCSR活動について具体的にイメージできるよう、実際の優良取り組み事例として、次の3社を紹介します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)は環境保護、地域創生、障がい者支援などの多彩なCSR活動を実施していることで知られています。
アメリカにおける長年の「トヨタ生産方式(TPS)」伝授活動では、現地の企業や地域の生産性を高め、競争力の増大・雇用の創出、医療福祉の拡充などに貢献しました。
トヨタはダイバーシティ・インクルージョン(多様性の包括・受容)の浸透にも数々の貢献をしています。知的障がいのあるアスリートへの支援活動「スペシャルオリンピック」では、個々の違いを個性として互いに尊重し合う共生社会の創出を支援。そのほか、障がいのあるアーティストの活動基盤整備にも携わっています。
2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック下では、モノづくりの技術を駆使しマスクやフェイスシールドの生産、飛沫循環抑制車両の開発、医療用防護ガウンの生産支援などを実施。本業の稼働を停止した各工場では、独自のアイデアで消毒機を開発・生産し、流通させています。
トヨタがCSR企業として優良なポイントは、スケールメリットを活かしながら卓越した技術力・ビジネススキルを社会に提供することで、広範囲な社会課題の解決を図っている点です。トヨタは自社の生産活動を社会の幸せを量産することと定義づけをし、世の中にポジティブな影響を与えています。
(出典:トヨタ自動車)
株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)
アパレルブランド「ユニクロ」を展開する「株式会社ファーストリテイリング」では、独特のCSR活動を実施しています。
全商品をリサイクル・リユースする「RE UNIQLO」活動を、店舗でリペアとアップサイクル(創造的再利用)をする活動へと発展させています。さらに回収された衣類は、世界各地の難民や国内の避難者へ寄贈するほか、世界の女性や若者の自立支援などにも活用しています。
同社では、実効性のあるコーポレート・ガバナンス体制を構築するために、サスティナビリティ活動推進体制を強化するほか、内部統制の仕組み強化を実施。従業員へのeラーニング教育で行動規範の順守・徹底を図っています。
また海外に多数の拠点を持つ同社では、サプライチェーンの労働環境改善にも注力。海外拠点では児童労働・強制労働を禁止するだけでなく、女性の管理職人材の育成にも尽力しています。女性の登用により生産現場の協調性が育まれ、生産性を向上させる効果も生まれました。
CSR企業としてファーストリテイリングが優良なポイントは、自社商材である服のライフサイクルを突き詰め、服の力で環境や人権も守れることを実証している点です。同時にリサイクル・リペアを通じて顧客を巻き込む活動に進化させている点も、優良ポイントに挙げられます。
(出典:株式会社ファーストリテイリング)
日本マクドナルドホールディングス株式会社
「日本マクドナルドホールディングス株式会社」は外食産業のリーディングカンパニーの使命として、早い段階からESG※へ取り組んでいます。
当社では保育園・幼稚園、小学校向けに「ハロードナルド!」という防犯・交通・SDGsの無料教育プログラムを実施。また地域へのサポート事業の一環として、難病で闘病する子どもと家族の滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を設立。日本では11か所に開設され、店頭募金や企業からの寄付などで運営されています。
同社では、製品の容器・包装紙、原料のすべてについて、持続可能の認証を受けた製品を使用しています。さらに同社では製造・流通全工程のトレーサビリティを確立。環境保護に取り組みながら品質管理の徹底を図り、サプライチェーンで働く人たちの安全を図ることで、持続可能性を実現しています。
日本マクドナルドホールディングスがCSR企業として優れている点は、企業スケールを活かしてサプライヤー、ステークホルダーとの共生関係を構築し、世界の広範囲にポジティブなインパクトを与えている点です。
※ESG:Environment(環境)、Society(社会)、Governance(企業統治)の頭文字で、地球温暖化や人権問題などの社会的課題を考慮した事業活動を指す。
(出典:日本マクドナルドホールディングス)
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CSRの未来
近年のCSR活動では技術革新やDXと密接な関係を持つことにより、社会的課題の解決を図り持続可能な社会を目指しています。また、グローバル市場でCSR活動実施企業が高く評価されていることも、近年の特徴です。
ここからCSRの未来について、次の3つの観点から解説します。
CSRの最新動向
現在CSRはDXと密接な関係を持ちます。技術革新とDXを進めることにより、これまで解決不可能と思われた社会課題が、解決できる可能性が出てきたためです。
日本政府と経団連が提唱する「Society5.0」は、AIやIoT、ビッグデータなどをすべての産業と社会で取り入れることで、持続可能で最適化された社会を実現する取り組みです。仮想空間と現実空間を融合することで、経済発展と社会課題解決を両立できるとされています。
世界でDXが推進されれば、企業が経済発展しながら存続できるだけでなく、フードロスや環境保全といった地球規模の課題も解決できると期待されています。
近年はCSR活動の普及により、企業と社会でダイバーシティ・インクルージョンが浸透しています。企業がダイバーシティ・インクルージョンを推進することで、従業員の士気と満足度が向上するだけでなく、優秀な外部人材の獲得もできます。常に事業に新しい視点を取り入れることができる企業は、競争優位性を保つことも可能です。このため、今後も企業がダイバーシティ・インクルージョン関連のCSR活動を推進すると考えられます。
さらに新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックを経験し、テレワークのような従来とは異なる働き方を支援するCSR活動も誕生しています。通信インフラ企業のCSR活動により安全・強固な通信網が整備された結果、離島などの遠隔地でもテレワークで仕事をすることが可能になりました。
また、パンデミックが日本経済に与えた多大な影響により、企業が海外に市場を求めるようになったことも、日本企業のCSR活動に変化をもたらすきっかけとなっています。海外進出の結果、異文化コミュニケーションの必要性が増したため、前のダイバーシティ・インクルージョン活動がさらに推進されることとなりました。
持続可能な経済のためのCSR
企業における今後のCSR活動は「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」の考え方もひとつの主流になります。製品を製造する段階から使い捨てのパーツを使用せず、回収・再利用が可能なパーツ、環境負荷の低いパーツのみを用いて製造するといった、ビジネスモデルの変更が行われるでしょう。生産に必要な資源についても、持続可能な調達方法を用いることが求められます。
サーキュラー・エコノミーの実施により、新たなビジネスチャンスと雇用が創出され、企業の持続可能性に結びつくとの考え方が浸透するでしょう。同時に「ネット・ポジティブ」という、削減や制限をすることにより、自然界のバランスを回復の方向へシフトさせるという考え方も、今後浸透すると考えられます。
CSRの浸透による顕著な傾向は、企業がサプライチェーンの透明性と人権保護にフォーカスするよう変化していることです。製造業でいえば、商材の原材料と製造工程が安心・安全であることと、製造・流通過程における全従業員が不当な労働に携わらず人権が尊重されていることが求められます。全工程の安全性・持続可能性を開示し証明されていることが、今後の企業の評価に直結するようになるでしょう。
CSRの未来展望
近年は「インパクト投資」や「ESG投資」の増加にともない、社会的企業が増加する傾向にあります。
インパクト投資とは、財務上のリターンと同時に社会・環境的なインパクトを与えることを目的とする投資行動で、インパクトを数値化し評価することが特徴です。ESG投資は環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に対する非財務投資のことで、インパクト投資はESG投資の一部と捉えられます。
グローバル市場ではすでに、インパクト投資やESG投資、SDGsへの取り組みが半ば前提化されています。日本においても企業の社会化の流れを受け、2022年4月に東京証券取引所の市場が変更されました。旧市場区分では「上場企業の持続的な企業価値向上への動機付けが不十分」とされ、新区分における上位2市場の位置づけは次のようになされています。
(出典:市場区分見直しの概要|日本取引所グループ)
- プライム市場:「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」
- スタンダード市場:「公開された市場における投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場」
株主総会では、コーポレートガバナンス報告書の開示と説明が求められ、中長期的見通しのもと対話をする必要が生じました。こうした市場の動きからも、上場を検討している企業をはじめ多くの企業で、今後社会的活動が活発化することが予想されます。
「CSR」に関するよくある質問(FAQ)
- CSR 証明書とは何ですか?
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CSR証明書とは、企業がCSR活動において一定の基準や要件を満たしていることを証明する文書のことです。CSR証明書は認定機関や規制機関によって発行され、CSR活動の透明性や信頼性を向上させる役割を果たします。
代表的なCSR証明書には「ISO 26000: 社会的責任ガイドライン」や「B Corp 認証」(サスティナブル優良企業の認証)などがあります。B Corpは日本ではまだ馴染みが薄いですが、世界ではスタンダード化されており、日本でも今後普及すると考えられます。
- CSR と SDGsの違いと関係性について教えてください。
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CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が社会的責任を果たすことを指す概念です。一方のSDGs(Sustainable Development Goals)とは、国連が採択した17の持続可能な開発目標を指し、解決すべき社会課題が明確化されています。
CSRとSDGsは目的とスケールこそ異なりますが、CSR活動の実施によりSDGsの達成を目指すという点で、両者は深く関連しています。企業がCSR活動をSDGsとリンクさせることで、より具体的な社会的課題へアプローチすることが可能です。
- CSR を組織全体に浸透させるためにはどのような取り組みが必要ですか?
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企業がCSRを組織に浸透させるためには、企業の経営者やトップマネジメントが示したCSR活動のビジョンに対し、従業員の関心やアイデアを尊重しながら、参画させる仕組みを構築することが必要です。
必要に応じて、従業員へCSRに関する教育や研修プログラムを提供し、従業員の意識と能力を向上させることも求められます。従業員へCSR活動に対する動機付けをするためには、活動への取り組みを評価指標として、パフォーマンス評価や報酬制度に反映させることも重要です。
- 中小企業でも実施しやすいCSR 活動のアイデアはありますか?
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中小企業にも実施できるCSRのアイデアはあり、実際に次のような活動が行われています。
- 従業員をボランティア活動に参加させ、地域貢献を促進する活動
- エネルギー効率の改善や廃棄物管理の見直しを行い、環境負荷を軽減する活動
- 地元の小規模事業者との協力や取引を通じた地域経済の活性化
- 専門知識やスキルを地域の学校や非営利団体と共有するなど、教育支援や技術支援の実施
- 公正な労働条件の確保や倫理的な取引による、社会的な信頼性の向上
企業規模が大きくない場合には、広範囲でのインパクトを狙う必要はありません。自社の財政を圧迫しない範囲で、限られたステークホルダーを対象に活動を実施すればよいでしょう。地域に密着している企業であれば、地域社会へ貢献できる取り組みが推奨されます。
侍の法人サービスがわかるお役立ち資料セット(会社概要・支援実績・サービスの特徴)をダウンロードする⇒資料セットを確認する
まとめ
CSR活動は企業と社会双方の存続と繁栄に寄与する事業として、SDGsの達成にも寄与する取り組みです。
グローバル社会において、今後は自社の利益だけを追求する企業の持続的経営が困難になります。CSR活動には「ISO26000」「GRIスタンダード」などの評価基準とフレームワークがあり、企業はこれらの指標で自社の公正性と持続性を開示・証明することが必要です。
CSR活動は、自社の企業理念や価値観、強みをもとに社会利益へ貢献できる事業を選択するため、実施手法は事業内容や企業規模によりそれぞれ異なります。先進事例の中から、自社に近いビジネスモデルの企業を参考にして、独自のCSR活動を策定してください。