DX人材育成にはどのような取り組みが必要?DX推進の目的や具体例とともに紹介
「DX研修」とは、DXを活用して既存事業効率化・新たな価値創造を目指す人材育成です。ですが、「DX」の定義は幅広いため、一体どのように取り組めばいいのか分からない場合も多いでしょう。
この記事では、DX人材育成の基礎知識や必要性、研修実施方法とともに、成功事例も紹介し、導入に向けた具体的なヒントやアクションプランを提供します。
DX人材育成とは
「DX人材育成」はDXを活用して業務変革ができる人材を育てることですが、「DX」自体が新しい言葉なので、なじみがあまりないというご意見も多いのではないでしょうか。ここでは、DX人材育成の基礎知識や必要性、定義について説明します。
DX人材育成の基礎知識と必要性
まず、「DX」とはデジタルトランスフォーメーションの略語で、AIやビッグデータといったデジタル技術を用い、既存業務の改善や新規事業の創出を目指すことを指します。また、レガシーシステムの刷新や企業風土の変革もDXに含まれます。
日本では、「2025年の崖」問題(レガシーシステム老朽化やIT人材不足によって引き起こされる企業競争力の低下リスク)対応策として、経済産業省による企業のDX化が推進されています。「2025年の崖」は多くの企業が直面する課題のため、経営者にとってはDXに必要な人材を育成することが急務となっています。DX人材育成には、経営者のリーダーシップや組織文化の変革が必須です。
DX推進に関しては、以下の記事も参考にしてみてください。
DX人材育成の定義と要素
「DX人材」とは、DXに必要な知識やスキル・経験を持った人材です。こうした人材育成のためには、継続的な学習やイノベーション能力・コミュニケーション能力・問題解決能力を向上するようなカリキュラムが必要となります。また、すでに社員が身に付けているIT技術をどのように活かせば効率的な研修が可能か、という検討も事前に行っておきましょう。
なお、DXを社内全体に推進するためには、一部の人材をDX専門家として育てるだけではなく、現場から経営層までの社員がデジタルリテラシーを身に付けることが重要です。全員がITへの理解を深めることで、新システムへの抵抗や反発がなくなり、IT技術を積極的に取り入れる企業風土が形成されるでしょう。
DX人材に必要なスキル
ここでは、DX人材に必要となるスキルを5つ解説します。
それぞれについて、詳しく説明していきます。
ソフトスキル
ソフトスキルとは、個人の仕事の取り組み方に影響する習慣や特性を意味します。例えば、DXの最新技術を常にアップデートできるような継続的な学習能力や、チームワークを円滑にするコミュニケーション能力、新しいアイデアを提案できるイノベーション能力などが該当します。さらに、DX技術で自社課題に取り組む問題解決能力も含まれます。ソフトスキルは職場の前向きな雰囲気の醸成、取引先との良好な関係構築といったメリットをもたらす重要なスキルです。
ソフトスキルはあくまでも個人の性格に基づく面が多い上に幅広く、入社後の研修での習得や定量的な評価が難しいとされています。ですが、個人が自分自身のソフトスキルを把握して鍛えるべきスキルを設定したり、上司や同僚からのフィードバックを得ることでスキル向上が可能です。
コミュニケーション能力
DX人材には、社内で新しいシステムや業務フローを浸透させるためのコミュニケーション能力が必要です。例えば、チームで課題解決に取り組む場合は、他メンバーとの協調性が求められます。さらに、経営層に新システム導入のメリットをプレゼンテーションしたり、同僚・部下にシステムの使い方を分かりやすく伝えるといった場面でもコミュニケーション能力が問われるでしょう。
そのため、DX人材研修のカリキュラムとして、コミュニケーションスキルの向上を目的としたトレーニングやワークショップを取り入れると効果的です。特に、グループワークやロールプレイングなどの実践を重視すると、場面に応じて傾聴したり、自分の意志を分かりやすく伝えたりといったノウハウを身に付けることが可能でしょう。
問題解決能力
DX人材にとって、DX技術を用いて企業の課題を解決する問題解決能力は何よりも重要なスキルです。そのため、DX人材研修として、問題解決能力向上のトレーニング・ワークショップを取り入れることは必須となります。
問題解決能力は、問題を認識する力、解決策を考える力、そして解決策を実践する力の3点で構成されています。それぞれの力を向上させるには、常に物事に対して疑問を持つクセをつけることや、問題や原因を紙に書き出して可視化すること、物事を体系的に整理するロジカルシンキングの訓練などが有効です。特にグループワークを実施すると、参加者が互いに刺激を受けて学習効果が高まるでしょう。
イノベーション能力
DX人材には、新たなアイデアや技術によって既存業務を変革するイノベーション能力の育成も必要です。また、イノベーション能力をもつ人材には3つのタイプがあり、プロジェクトリーダーに向いたプロデューサータイプ、イノベーション実現の技術選定・実装を得意とするデベロッパータイプ、企画立案を行うデザイナータイプがいるとされています。
自社に足りないのはどのタイプのイノベーション人材なのかを考慮しながら、イノベーションスキルの向上を目的としたトレーニングやワークショップを実施することが有効でしょう。また、イノベーション人材が能力を発揮できるような組織風土を整えることも重要です。
プロジェクトマネジメント能力
DX人材には、DXプロジェクトを推進するプロジェクトマネジメント能力も必要です。特に、既存システム刷新や社内の構造変革は大規模なプロジェクトとなるため、プロジェクトを主導して遂行できる人材育成が重要となります。
プロジェクトマネジメント能力を向上させるには、既にスキルを持ったベテラン社員をコーチ役とし、育成対象者へのコーチング・バックアップをしながら二人でプロジェクトマネジメントを実践していくといった方法が有効です。また、グループワークも有効でしょう。
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DX人材を育成するための4STEP
ここからは、DX人材育成の流れを4STEPに分けて解説します。
- STEP1.研修プログラムの導入:短期集中型や長期の定期研修など
- STEP2.セミナー・講演の実施:専門家の講演や交流会など
- STEP3.メンタリング制度の構築:ベテラン社員と新人社員のマッチングなど
- STEP4.外部の人材育成機関との連携:資格取得やキャリアアップ支援など
以下で詳しく説明していきます。
STEP1.研修プログラムの導入
まずは、研修プログラムを導入する必要があります。研修プログラムは社内で内製することも、外部の研修会社に委託することもできます。内製する場合は自社の課題に合わせたカリキュラムを組むことができる一方、外部委託は自社の人件費・業務時間を割かずにプロの指導が受けられるため、自社の状況にあった方を選びましょう。加えて、外部委託の場合はオンライン研修プログラムも用意されており、社員が好きな時間に受講することも可能です。
また、研修プログラムを短期集中型で一気に行うのか、半年に一度など定期的に長期間行うのかも検討すべきポイントです。喫緊の課題への解決を進めたいならばプロジェクトの主要メンバーへ短期プログラムを受講してもらう方がいいでしょうし、社内全員へのITリテラシー向上は長期間かけて研修を実施する必要があるでしょう。
STEP2.セミナー・講演の実施
DX推進のためには、社外の専門家から最新技術の情報を取り入れることも必要です。また、他社のDX成功事例のリサーチを行い、自社に活かせるポイントが無いか探すのも重要でしょう。
常に最新情報をキャッチアップするには、自社に専門家を招聘してIT技術に関するセミナーを定期的に実施したり、同業他社でDX人材同士の交流会を開催したりすると効果的です。また、他社の経営者・トップマネジメントによる講演といった外部イベントにも積極的に社員を参加させましょう。
さらに、有志社員での社内勉強会を推進すると、社員が自主的にDX技術を学ぶ風土が形成されたり、他部署間での社員交流が発展したりといったメリットを得られます。
STEP3.メンタリング制度の構築
DX人材育成には、社内でベテラン社員が新人社員へと経験を伝えられるメンタリング制度の構築も有効です。メンタリング制度とは、新人・若手社員にベテラン社員のメンターを割り当て、定期的に面談を行う仕組みです。新人社員や若手社員が抱える課題や悩みに対して、ベテラン社員が経験や知見を共有することで成長を促す効果が得られます。また、ベテラン社員側も若手のマネジメント経験を積むことが可能です。
メンタリングを実施する際には、その目的を明確にし、ベテラン・新人社員の双方がメリットを感じる関係を構築することが重要です。また、人事部などがメンタリングの進捗状況や効果を定期的に評価し、改善を図ることも必要となります。メンタリングには時間や費用がかかるため、実施の際には組織・メンター自身の意識改革も同時に促進する施策を取り入れましょう。
STEP4.外部の人材育成機関との連携
DX人材にはさまざまなスキルが求められるため、自社内ですべてのスキルアップをカバーしたプログラムを構築するのが難しい場合もあります。その場合、外部の人材育成機関と提携して、資格取得やキャリアアップ支援を受けることで効率的な人材育成が可能となります。
外部の人材育成機関では様々なプログラムが用意されており、その中から自社に合ったプログラムを選ぶことができます。ただし、外部の人材育成機関との連携にはコストがかかるため、プログラムの内容や効果を評価し、費用対効果を慎重に検討する必要があるでしょう。
DX人材の育成に向けた取り組み
社内全体でDXを推進するには、経営者がDX人材育成に積極的に取り組む必要があります。ここでは、DX人材の育成における経営者の役割や、取り組みを実践する上でのポイントを解説します。
経営者の役割
DX推進における経営者の役割は、社内のDX人材育成の重要性を認識し、積極的に取り組むことです。さらに、経営理念や戦略をDX人材育成に反映させ、自社にふさわしい形でのDX推進が行えるよう舵取りをしましょう。
また、DX人材育成のための予算やリソースを確保し、IT技術への投資を行っていくことも経営者の重要な役割です。DX人材の育成プログラムの実施にあたっては、研修の評価・改善のサイクルを繰り返してブラッシュアップすることが必要となります。さらに、社外からDX人材を採用したり、既存部署とDX人材との橋渡しに取り組むことも重要でしょう。
実践する上でのポイント
DX人材育成を実践する上では、組織文化の変革・組織風土の変更・組織体制の見直しの3点が必要となります。既存組織を変えていく上で重要なのは、組織内部・外部の両方の視点を持つことです。そのため、DX人材育成プログラムの設計や実施に、専門知識を持った外部専門家の助けを借りるのもひとつの方法でしょう。さらに、DX人材の育成は継続的な取り組みが必要であり、定期的な評価・改善を続ける体制づくりも欠かせません。
以下では、組織文化の変革・組織風土の変更・組織体制の見直しについて詳しく説明していきます。
組織文化の変革
DX推進にあたっては、保守的な組織文化を変革することが重要です。例えば、チャレンジ精神を重んじ、失敗許容度が高い雰囲気を作れば、DX人材のアイデアや提案を積極的に受け入れる文化を醸成できます。
特に既存システム刷新や業務フロー変更には既存従業員の反発が強く起きる傾向があるので、社内全員が新たな技術の必要性を理解し、積極的に取り組めるような意識作りが重要です。
組織風土の変更
DXに適した組織風土を醸成することも大切です。わざわざDXスキルをもつ人材を育成しても、彼らの意見・提案が受け入れられなければDX推進は進みません。そういった事態を回避するには、メンバー全員が自由に意見を言えるような、コミュニケーションを促進する環境づくりが重要となります。
特に上層部が若手社員の意見を尊重しないといったことがないよう、階級や所属部署にとらわれずにコミュニケーションをとれるような組織風土を目指しましょう。
組織体制の見直し
DX人材育成を成功させるには、組織体制を新たに構築することも必須です。例えば、研修プログラムを実施するDXアカデミーの設立や、DX人材育成に特化した部署の設置などが考えられるでしょう。また、これら新組織と既存事業部が円滑にコミュニケーションできるようにするのも経営者の重要な役割です。
さらに、DX人材を育成するための予算やリソースの確保も決裁権を持つ経営層にしかできないことのひとつとなります。
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DX人材育成の成功事例
ここからは、DX人材育成の成功事例を3例ピックアップします。
それぞれについて、詳しく説明していきます。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、2021年に「デジタル変革推進室」を設置し、経営層からの強い意識とリーダーシップによるDX人材育成の推進を行っています。具体的な施策としては、外部ITコンサルタント企業と連携しながら、継続的な学習に重点を置いた育成プログラムを実施しました。特に、各部署の現場担当者が自分たちで業務に適したアプリを作れるよう、ノーコード・ローコード開発(コーディングを最小限に抑えるか、まったく使用せずに行うソフト開発)の講習会に力を入れています。
さらに、DX人材同士が情報交換や交流を行うコミュニティの設立により、相互学習を促進する仕組みを作りました。また、シニアDXリーダーによる新人社員の指導や育成プログラムの企画・実施を行い、メンタル面の支援も行われています。
(アバナード「トヨタ自動車の、社内DX推進の柱の1つ「市民開発拡大」のための人材育成を支援」より)
パナソニック株式会社
パナソニック株式会社では、DX推進を「PX(Panasonic Transformation)」と名づけ、DX人材育成に取り組む組織の一体感の確立に取り組んでいます。具体的には、人材育成のための予算を確保し、外部研修機関と提携して専門的なスキルの習得を実施しています。
また、家電や自動配車サービスといった自社で開発したDXプロダクトのリアルな事例を活用し、現場主導のプロジェクトでの実践経験を積ませることで、スキルアップも図っています。こうした取り組みでのDX人材のスキルアップを継続的に評価し、プログラムの改善や再設計を行うことで、パナソニック株式会社では効果的な人材育成を実現しています。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では、経営陣からのサポートを得てDX推進部署を設置し、DX人材育成に力を入れています。人材育成のための教育プログラムを内製化し、自社のDXアカデミーを設立しました。「DX・AI学習プログラム」などの多様なコースを提供し、DX人材が必要なスキルや知識を網羅的に学習できるようにしています。さらに、継続的な学習と成果を重視し、育成の進捗状況や成果を定量的に評価してプログラムの改善につなげています。
(ソフトバンク株式会社「全社員のリテラシー向上と実践力強化のため「DX・AI学習プログラム」を導入」より)
さらに、社員が新たなアイデアや技術を発掘できる「イノベンチャーラボ」を設置し、社員同士が切磋琢磨してアイディア創出を行える環境を整備しているのも特徴です。
よくある質問(FAQ)
ここからは、DX人材育成に関するよくある質問・回答を紹介します。
- DX人材育成に関する本は、どのようなものがありますか?
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DX人材育成に関する本でおすすめのタイトルを紹介します。
- 『図解でわかるDX いちばん最初に読む本』(神谷 俊彦):DX初心者向けの解説書
- 『DX戦記 ゼロから挑んだ デジタル経営改革ストーリー 』(中西 聖 ):中小企業のDX事例紹介
- 『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(小野塚征志 ):DX推進で収益化に成功している企業の事例を紹介
- 『いまこそ知りたいDX戦略 自社のコアを再定義し、デジタル化する』(石角 友愛):DX戦略の実践方法について分かりやすく解説
- DX人材育成やリスキリングを実施する上で、どのようなスキルや知識が必要ですか?
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DX人材育成で重視されるのは、まずDXに関する知識や理解といったIT技術に関わる知識です。また、DX事業を推進するにあたっては、プロジェクトメンバー間や既存事業部署とのコミュニケーション能力、プロジェクトマネジメント能力も必要となるでしょう。また、問題解決能力やイノベーション能力といった、自社課題を正しくとらえた上で柔軟にアイデアを生み出せるスキルも大切です。
- DX人材育成において、スキルマップはどのように活用されますか?
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スキルマップを利用すると、従業員の現在のスキルや知識を把握し、必要なスキルや知識の整理や設定を行うことが可能となります。つまり従業員個人にとっては、スキルマップを使用することは、自身のスキルアップ・キャリアアップのための目標設定や計画の策定に活用できるということです。
また、経営層にとっては、組織全体のスキルマップを把握し、ビジネス目標に沿ったスキル強化プログラムの開発や実施を行うための重要なツールです。
- DX人材育成のプログラムには、どのような種類がありますか?
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DX人材育成プログラムは、下記の3種類に分けられます。
- イノベーションプログラム:デザイン思考やプロトタイピング、アジャイル開発などの手法を学び、イノベーション能力を育成するプログラム。
- デジタルスキル研修:ITリテラシー、デジタルマーケティング、データ分析、プログラミングなどのデジタルスキルを習得するための研修。
- キャリア開発プログラム:DXに必要なスキルや知識を習得することで、従業員のキャリアアップや成長を支援するプログラム。
侍の法人サービスがわかるお役立ち資料セット(会社概要・支援実績・サービスの特徴)をダウンロードする⇒資料セットを確認する
経営者が舵取りし、全社的にDX人材育成に取り組もう
DX人材育成は、自社の抱える課題を解決し、業務効率化・業績アップを実現するために必要な取り組みです。
DX技術を導入するには、一部の人材をDXの専門家に育て上げるのではなく、全社をあげて組織風土を変えていくことが重要です。経営層が積極的にDX人材育成に取り組み、社内リソースを投入していく事が成功のカギといえるでしょう。