エンジニア評価制度の設定は難しい?不満のない基準と評価項目を解説
エンジニアの評価基準が分からない
エンジニアが納得できる評価制度を制定できない
とお悩みの担当者も多いようです。
エンジニアにはさまざまな職種と業務があるため、公平な評価を行う難しさを感じているのではないでしょうか。しかし納得性のある評価基準を設定できなければ、優秀な人材が離職してしまう可能性もあるため、評価制度の適正化は喫緊の課題です。
今回の記事では、エンジニア評価について、現状と評価方法、評価制度の設定や研修プログラムへの活かし方について、詳しく解説します。
フィードバックの方法やエンジニア評価制度の成功事例も紹介しますので、自社のエンジニア評価制度の設定にお役立てください。
エンジニア評価の重要性
はじめにエンジニア評価の重要性について、現状と課題、注意点の観点から解説します。
エンジニア評価の現状と課題
エンジニアの評価には、ほかの職種以上に多くの課題があります。
エンジニアの評価項目は多岐にわたるうえ、営業のように業績を数値化しづらいことが特徴です。Webサイト運営や社内DXなど、会社の売り上げや利益に直接影響しない業務が多いこともあり、エンジニアの仕事には明確な評価基準を定めにくいといわれます。
エンジニアの評価に関する課題のひとつは、短期で成果が出ない長期プロジェクトでの評価が困難なことです。個人への評価がプロジェクトの評価に左右されやすい点も、エンジニアを評価する課題のひとつです。
また、評価する側にエンジニアの経験が豊富な人材がいないなど、エンジニアを適正に評価できる人材の不足も課題として挙げられます。さらに客先常駐型のエンジニアについては、勤務の状況や態度を把握しづらいうえに、顧客先の評価に委ねられてしまう点も大きな課題です。
企業が成長を続けるためには、組織運営を技術面から支えるエンジニアに対し、適正な評価が行われることが重要といえるでしょう。
評価制度の重要性
エンジニアの仕事に対する公平な評価制度は、事業の成果や組織の成長に大きな影響をおよぼします。
適正な評価と処遇は、エンジニアの成果に向けてのモチベーションアップをもたらします。頑張りが認められたエンジニアは、自社へのエンゲージメントがアップし、業務への意欲が増進するでしょう。
従業員が人事評価に納得できるためには、明確な評価基準とその根拠を示すことが重要です。納得できる適正な評価制度があることで、評価が原因での離職を減らすことができます。また向上心や自己開発意欲を評価評基準に加えれば、従業員が自ら目標を設定し、成長意欲を持つこともできます。成長を促す企業文化を醸成することで、成長意欲のある外部人材の獲得につなげることも可能です。
適切な評価制度の設定は、従業員のモチベーションと生産性の向上に重要なファクターとなり、企業の成長につながります。
エンジニア評価の目的と注意点
エンジニアの評価制度を効果的に機能させるためには、評価の目的を明確にすることが大切です。
人事評価制度を制定する主な目的にはスキルアップとパフォーマンス向上、人材開発、報酬の決定などがあります。自社が現在抱えている課題に沿って、何を目的とするか明確化することが必要です。目的が明確であれば、従業員は制度の評価基準に納得ができ、公平性を感じられます。
公平な評価を行い自社の目的を達成するためには、明確な評価基準を定めることと、評価の透明性を確保することが必要になります。その前提として、会社が従業員に求める人物像を明確にしておくことと、求める人物像に対する評価基準を明確化しておくことが重要です。
エンジニアに対しては特に複数の視点から評価を行うことも大切で、プロジェクトの成果のみで評価せず、成果に至るプロセスも評価することが重要になります。プロセスを評価しなければ、成果に対する貢献を評価できないためです。
エンジニアを適正に評価するためには、成果目標だけでなく行動目標も明確にすることが重要といえます。
エンジニア評価制度の設定
ここではエンジニアの評価制度を制定する仕方について、次の内容で解説します。
パフォーマンス評価の指標(KPI)設定の基本
近年エンジニアの業務でも、プロジェクトの成果と進行を定量評価するためのKPIマネジメントが注目され始めています。
「Key Performance Indicator」(重要業績評価指標)とは、目標達成のために行うべき業務内容を、数値で可視化するための指標です。エンジニアにおけるKPIマネジメントとは、プロジェクトの目標を達成するための中間目標としてKPIを設定し、達成状況を評価することです。
エンジニアのKPIは、個人の目標と仕事の目標の2つについて設定されることが一般的です。個人目標としては、キャリアプランの実現に必要な経験などを設定します。仕事のKPIとしては、会社の経営目標に対し、貢献できることを目標として立てるようにします。
エンジニアがKPIを設定するメリットは、リソースを割くべき課題の優先順位を判断できるため、業務の効率化と生産性向上につながることです。KPIがあることで、エンジニアは目の前のタスクだけに忙殺されることなく、目標を視野に入れながら成長できます。
KPI設定がエンジニアの評価に役立つ理由は、KPIがあることにより、目標達成度を定量的・定期的な評価基準とできるためです。目標達成度は評価の根拠として理に適っているため、評価制度に対する不満を減らすことができます。
指標となるKPIに求められることは、シンプルで分かりやすく現実性があり、設定してすぐに計測できるなど、具体的で達成基準が分かりやすいことです。
技術スキルとソフトスキルのバランスの取り方
昨今は開発の現場でもソフトスキルの重要性が増しています。
エンジニアに求められるソフトスキルは、課題解決力、対人スキル、発想力、ビジネススキル、セルフマネジメントなどの領域です。近年は特にコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、プロジェクトマネジメント能力が重要視されるようになっています。
ひとつのプロジェクトで複数職種の人と関わるため、エンジニアにコミュニケーション能力は欠かせません。また、トライ&エラーを繰り返す開発においては、分析力と課題解決力は必須です。そのため、エンジニアは技術力と同等にこうしたソフトスキルも評価されることが望ましいです。
リーダーシップやマネジメント能力も必要なソフトスキルといえます。部署や職種を横断してのプロジェクトでは、プロジェクトマネジメントスキルは特に重要です。
しかしソフトスキルの定量評価は困難なため、多くの企業でエンジニアのソフトスキルを適切に評価できていない現状があります。
問題解決能力を評価基準に加えるためには、問題に対する取り組み姿勢や解決までのプロセスを評価することが必要です。その際に、後述する360度評価を行うことで、本人の自覚していないソフトスキルを客観的に評価することも有効です。ソフトスキルを定量評価するには、細分化した評価項目のそれぞれに対し「できた」「できなかった」とチェックを行い、点数化することもひとつの方法です。
エンジニアを技術スキルとソフトスキルの両面からバランスよく評価することにより、組織に次の効果をおよぼすことが期待できます。
- 提案や改善案が積極的に出されるようになり、チーム全体でより高品質のシステムやアプリ開発が可能になる
- 顧客との要件定義やエンドユーザーのインタビューでニーズを的確に汲み取れることで、開発にフィードバックを還元でき、製品への顧客満足度が向上する
- 円滑なコミュニケーションによりチームの作業効率が上がり、開発スピードそのものが上がる
- 技術とマネジメント力を兼ね備えたエンジニアの存在により、部下が能力を発揮しやすくなり、会社の生産性が高まる
エンジニアを技術スキルとソフトスキルの両面から評価を行うことで、組織の活性化と企業収益の向上が望めるのです。
公正性と透明性の確保
エンジニアの評価制度には公平性と透明性が必要です。公平性と透明性が欠けていると、従業員は正当に評価されていないと感じ、制度に不信感を持ってしまうためです。
公平性と透明性のある評価制度にするためには、次のことに留意する必要があります。
- 評価基準を社内に周知する
- 評価結果だけでなく評価に至った経緯もフィードバックとして伝える
- 複数の目線から評価を行う
まず、評価基準が企業の理念に基づいていることを伝えたうえで、理念を達成するためにどのような基準が設けられているのか、具体的にどのように行動すれば評価が上がるのかを明示することが大切です。
そのうえで、評価の結果だけでなく経緯と根拠を示すようにすれば、低い評価を受けた場合でも本人が自身の改善点を把握でき、努力目標を見つけられます。
また、人事部門や上司だけでなく複数の目線から評価を行うことも、本人ならではの工夫や技術を評価できるため、公平な評価につながります。複数目線での評価に有効な手法は、チームメンバーや部下から評価を受ける360度評価や、自己評価などです。
適切な自己評価を行うためには、本人に対するヒアリングを実施すると効果的です。自己評価が高すぎるケースについては、正しい自己評価法を伝えることで、本人が他者のフィードバックを不服に感じなくなります。
評価制度に公平性・透明性があることで、従業員が評価に納得でき、目標達成に向け真摯に取り組めるため、組織の業績向上が望めます。
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評価方法の選択と実施
ここからエンジニアを評価する具体的な方法を解説します。エンジニアの適正評価に有効な方法は、主に次の3つです。
ピアレビューの有効性と導入方法
エンジニアの目標設定にピアレビューを取り入れる企業が増えています。
ピアレビューとは、チームメンバー・同僚から率直な意見を受ける、メンバー相互のフィードバックのことです。エンジニアを評価する手法のひとつとして、1on1ミーティングと併用されることも多いです。
ピアレビューの主な効果として、自分では気付けない改善点を発見でき、次の目標設定に活かせること、ピアレビューを通じてお互いのノウハウを共有できるため、チーム全体の成長を促すことが挙げられます。
ピアレビューを行ううえでの留意点は、結果に対して参加者全員が責任を持つこと、皆が自由に意見を言える雰囲気を作ること、個人攻撃にならないよう配慮することです。
エンジニアの評価と目標設定にピアレビューを取り入れる有効性は、客観的な評価ができること、チームにおけるエンジニア個人の役割や貢献度を測りやすくなることです。マネージャーからの評価を併せて行う場合にも、ピアレビューをもとに客観的なフィードバックを行えるため、フィードバックに対する本人の納得度が高まります。
エンジニアの評価にピアレビューを導入することで、効果的な目標設定が可能になるため、組織全体の生産性を向上させることも可能です。
360度フィードバックの活用法
エンジニアの評価方法として、360度評価を行うことも有効です。評価対象となるエンジニアの上司、部下、同僚などによる複数の立場から評価を行うもので、主に同僚で行う手法を先述のピアレビューと呼びます。
360度評価は複数人が評価するため公平性が高く、自身の評価に納得しやすいメリットがあります。またチーム内の人間関係や貢献度を把握できることも特徴です。
360度評価は部署横断で行われることもあります。複数部署から多面的な評価を受けられる一方で、業務に直接関係のない感情や人間関係などで、主観的な評価をされやすい側面もあり、注意が必要です。そのため近年はエンジニアだけで360度評価を実施するケースが多いようです。
360度評価における評価者の選択方法については、次の4種類があります。
- 評価者を匿名にする
- 評価者を被評価者には公開せず、被評価者の人事には公開する
- 評価者を被評価者には公開せず、被評価者の上司と人事には公開する
- 評価者を公開する
360度評価を導入する目的により上記を使い分けます。例えば給与を決める目的であれば評価者の匿名性を重視し、本人の内省を目的とする場合は評価者を公開したうえで、フィードバックの機会も設けるといった具合です。
運営上の注意点として、評価者数が多いケースや評価項目が多いケースでは、評価者(回答者)と人事担当者の負担が重くなる可能性があります。その場合は質問設計とサーベイ機能のあるツールを活用することで、双方の負担を軽減するとよいでしょう。
チーム内での定量的・定性的評価の運用
エンジニアの評価は定量的・定性的の両面から行われる必要があります。
エンジニアのスキルの多くは定量的評価が困難なため、定性的に評価されている評価項目もあるようです。定量評価と定性評価では評価の視点が異なり、実際の人事評価では双方が併用されるケースが多いです。
定量評価と定性評価それぞれで評価される項目は、主に次の内容です。
定量評価されるスキル | 定性評価されるスキル |
プロジェクトの成果、エラー削減率、担当案件数など | コミュニケーション能力、リーダーシップ、セルフコントロール能力、リスク分析力、創意工夫、知識、協調性、規律性、積極性、責任感など |
業務の成果は定量的に評価されますが、成果に貢献したプロセスや仕事への取り組み姿勢は定性的に評価されるのが一般的です。
定性的評価のメリットは、直接的な成果だけでなく、次のようなチーム貢献についても評価できることです。
- 顧客ごとに配慮した資料作成をしていることで、いつもスムーズな商談ができている
- 取引先への定期的なメール連絡でサポートを怠らなかったため、クレームを未然に防げた
- 新入職員が進んで雑務を担当したおかげで、中堅職員が開発に集中できた
- 自身の知識とノウハウを共有するために講習会を開催した
定性的評価の課題は、評価者の主観に左右されやすく、客観性に欠ける場合があることです。そのためエンジニアのスキルを適正に評価するうえでは、定性評価と定量評価を組み合わせて数値化することが重要になります。
定性的に評価されるスキルや行動を数値化することで、客観的で納得のいく評価をすることが可能です。例えば次の内容についても、目標を期間や頻度などの数値を使って表すことで、定量評価が可能になります。
- 勤務態度の改善を行った⇒遅刻・早退・欠勤が1回もなかった
- ノウハウを伝えるための講習会を行う⇒月1回の講習会を実施する
さらに目標達成度を5段階にスコア付けすることでも、数値化を容易に行えます。エンジニアのスキルや職務貢献を数値に置き換え定量的に評価できれば、評価結果に対する納得感を得やすいでしょう。
エンジニアの評価を定量・定性の両面で評価を行うことは、組織と企業の成長に効果的です。短期で結果が出ないプロジェクトに対しても、エンジニアが目標意識を持って臨むことができれば、チームの開発力が向上し企業の競争力が高まることにもつながります。
フィードバックと研修プログラム
ここからエンジニアの評価を人材育成に活かすための、フィードバックと研修プログラムについて解説します。
フィードバック方法
人事考課においては、評価を行うのみでなくフィードバックを行うことも重要です。
人事評価の主な目的は、従業員の成長促進や会社に対する貢献度の可視化ですが、近年は前者の色合いが強くなってきています。ここから成長促進のためのフィードバックが重要視されるようになりました。
成長促進に効果的なフィードバックの原則は、時間を置かずに実施すること、短いスパンで実施すること、すぐに行動に移せる内容であることです。タイムリーかつ的確なフィードバックを受けることで、各々のエンジニアは目標に対し自分がどの位置にいるのかを確認でき、フィードバックを次の目標設定の指標にできます。
効果的なフィードバックを行うポイントは、本人の自己評価を受け止めること、優れている点と改善点をバランスよく示すこと、数字やエピソードのエビデンスで具体性を出すことです。本人がフィードバックをポジティブに受け止められるよう、改善点を伝えたあとに優れている点に言及するなど、伝え方を工夫するとよいでしょう。
的確なフィードバックを実施することで、本人と評価者が目標と進捗を共有でき、目標達成を実現しやすくできます。
評価に基づく研修プログラムの設計
エンジニアの評価をもとに研修プログラムを設計する際の、ポイントについて解説します。
エンジニアの研修プログラムを設計する際には、受講者それぞれのスキルや設定目標により内容をカスタマイズすることが望ましいです。特定のプログラミング言語の習得や、プロジェクトマネジメントスキルの習得など目標は人によりさまざまで、目標達成に必要なプロセスも異なるためです。
研修プログラムを設計する手順は、まず自社に求められるエンジニア像から自身の目標を定めます。すでに目標を定めている場合は、進捗度合いを評価し、受講すべき内容を検討します。
その際に、受講者のスキルやニーズに適した内容を選択することが重要です。現在のスキルに見合わないレベルの研修を受けても、受講者のモチベーションが下がり、継続できないためです。
また業務との兼ね合いを考慮し、受講のスケジュールを調整できるかどうかも重要です。必要に応じて対面研修のほかにオンライン研修も活用するなど、柔軟性のある受講方法を選択するとよいでしょう。
目標を達成するための研修には、受講後のフォローアップも必須です。研修を1回実施して終わりではなく、講師が受講者に伴走して進捗をサポートすることで、研修の目標達成効果が最大化されます。
受講者が自社の求める人材像を目標とし、目標にコミットした研修を受講することにより、研修が自社の課題解決に直結するため、業務成果の向上が期待できます。
弊社の研修サービス侍エンジニアBizでは、それぞれの企業や受講者の課題に合わせてオーダーメイドでカリキュラムを作成。必要な内容だけを効率よく学習できます。貴社専任のインストラクターがゴールまで伴走するため、受講者を目標達成まで導くことが可能です。
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評価制度の見直しと改善方法
適切なエンジニア評価制度の運営と、評価に基づく人材育成について把握したところで、評価制度の見直しと具体的な改善方法について解説します。
評価制度の見直しとアップデートのプロセス
人事評価制度は企業の経営理念やビジョン、価値観に沿って設定されますが、時代の変化により再設定をする必要が生じることもあります。
社会情勢は目まぐるしく変わっており、社会や人々のニーズに合わせて企業の経営方針やビジョン、価値観も進化させていくことが必要です。技術の進歩が速いエンジニアの世界では、さらに速い変化が求められるでしょう。
現在の評価制度が自社の方向性に則っているか、時代に合っているか再確認するうえで、見直しが必要と判断されるのは次のケースです。
- 自社の現状と人事評価制度が合致していない
- 評価制度の内容が浸透していない、あるいは評価基準があいまいである
- 本人に評価の結果が十分説明されていない
評価制度の見直しを行う際には、企業・組織の現状を把握し、求めている人材像を明確にしてから、従業員にどのようなスキルを習得して欲しいかを明示する必要があります。求める人材像が明確であれば、従業員が自身の現在との差を把握でき、目標を設定できるためです。
目標に対して不足しているスキルが明らかになれば、次に取るべき行動を判断でき、行動することで理想像に近づくことができます。その結果、本人のモチベーションアップや組織への信頼、自社エンゲージメントの向上につなげることが可能です。
現在の人事評価制度がうまく機能していないと感じたときには、先述の360度評価のほか、次の評価手法を取り入れることも有効です。
評価手法 | 概要 | 特徴 |
---|---|---|
MBO(目標管理制度) | 組織の目標に沿って従業員自らが個人目標を設定し、達成のための行動と達成度合いを評価するマネジメント方法 | 達成度合いで評価するため企業・従業員双方の納得を得やすい |
OKR (目標と主要な成果) | 目標(Objectives)と結果(Key Results)を結びつけ、目標設定・進捗確認・結果の評価を繰り返し行う評価手法 | 目標への進捗確認に基づくため、評価に公平感と納得感がある |
コンピテンシー評価 | 高パフォーマンス人材の能力をモデルとし、モデルに沿って従業員の行動を評価する手法 | ・モデルが明確なため努力すべきポイントを把握しやすい ・組織にとって効率的な人材育成が可能 |
年次評価の廃止(ノーレイティング) | 従来の年次評価制度を廃止する代わりに、頻繁なフィードバックを実施する評価手法 | ・変化する状況に合わせた適切な評価を実施しやすい ・成果に至るまでの行動も評価対象・昨今の人事評価のトレンド |
評価制度を定期的に見直し更新することで組織にもたらされる効果として、次のことが期待できます。
- 従業員のモチベーションのアップ
- 組織と従業員の信頼関係構築
- 自社へのエンゲージメントの向上
- 従業員の隠れた才能の発掘と活用
自社の現状を把握したうえで、ビジネス環境の変化に応じた評価制度の更新を行うことが、企業の成長のために不可欠です。
社員のフィードバックを取り入れた評価制度の改善
評価制度の制定と更新を実施する際には、従業員のフィードバックを取り入れることが重要です。
経営層や人事部門と現場エンジニアとの間で、評価に対する認識のズレがあることにより、処遇や評価に対する不満が生じるケースは多いです。例えば、上層部は従業員満足度が待遇で決まると考えている一方で、エンジニアは満足度を自身の成長度合いや自己実現で捉えているといったケースが挙げられます。
評価制度に関する認識のズレをなくすためには、従業員からのフィードバックを受けることが必要です。フィードバックを取り入れるためには、従業員へのヒアリングやアンケートの実施が有効です。
これまで紹介してきた複数視点からの評価手法を通じ、評価者が各従業員と密なコミュニケーションを維持しながら、評価制度に対する従業員のフィードバックを取り入れることも可能です。
評価制度をフィードバックに基づき改善することで、従業員は自身への評価に納得し、自社へのエンゲージメントが高まることが期待できます。自社へのエンゲージメントが高い従業員は、生産性が高い傾向にあるため、組織の業績に大きく貢献できるでしょう。
エンジニア評価の成功事例
ここで自社のエンジニア評価制度を最適化するうえで参考にできるよう、次の成功事例3社を紹介します。
株式会社メルカリ
日本最大のフリマサービスを提供する企業「株式会社メルカリ」では、自社のバリューに基づく複数視点の評価基準でエンジニアを評価・育成しています。
エンジニアのあるべき姿を共有し強い組織づくりをするために、同社では自社バリュー「Go Bold, All for One, Be a Pro」を基に、エンジニアの成長段階ごとに期待される行動を「Engineering Ladder」として明文化。評価やゴール設定およびキャリア設計の指標にしています。
同社のエンジニアは一定期間ごとに上長と目標設定を行い、定期的な進捗確認を実施。この際にEngineering Ladderをもとに目標を設計し、目標達成度に対してバリューに基づき評価を行うことが特徴です。半年ごとのエンジニア評価は、自己評価とメンバーからのピアレビュー、マネージャーからのフィードバックの3つで行われます。
メルカリでは他セクションへ自ら応募して異動できる代わりに、外部応募と同等の高いスキルが求められます。こうした挑戦についてもバリューに基づき評価している点が、メルカリの高い開発力の源といえるかもしれません。
(出典:株式会社メルカリ)
GMOペパボ株式会社
個人向けレンタルサーバー・ネットショップ作成サービス提供会社「GMOペパボ」では、エンジニアの職位制度を繰り返しアップデートすることで、エンジニアの自律的な成長を促しています。
職位制度には、基準を満たせば昇格できる3等級までと、立候補と上位者面談で昇格する4~8等級があり、4等級以上ではエンジニアの上位職とマネジメント職とに分かれ、どちらを目指すこともできます。
個々のエンジニアに対して半年に1回行われる1on1ミーティングでは、専門職上長と所属上長の両方が面談を行い、技能と職務への取り組みの両面から助言やフィードバックを実施。それにより同社のエンジニアは自身の評価に納得できるだけでなく、フィードバックをもとに掲げた目標を達成し、成長できている実感を得られています。
等級の上がったエンジニアは報酬面でも大幅に増額され、満足度も向上している点は、同社の評価と処遇が効果的にリンクしていることの表われといえるでしょう。
(出典:GMOペパボ)
クックパッド株式会社
料理レシピの投稿・検索サービスを提供する「クックパッド」では、新しい職制を設けてエンジニアのマネジメントと評価を行い、評価と育成の両面を改善しています。
かつては評価者の上長が非エンジニアで、技術面を適正に評価できていない状態がありました。さらに若手のエンジニアが増え、キャリア形成面のフィードバックが追い付かないという問題も顕在化したのです。
そこで同社では「テックリード」という職制を設け、エンジニアがエンジニアを評価できる仕組みを導入。若手エンジニアが仕事の相談をしやすくなったほか、テックリード自身も相談を受けることで成長につながったといいます。
同社ではマネージャーとテックリードの両方から評価を実施することで、自ら考え自ら動く組織の育成を目指しています。
(出典:クックパッド株式会社)
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よくある質問(FAQ)
- エンジニア向けの評価シートを作成する際の基準は何ですか?
-
エンジニアの評価シートを作成する基準について、ステップを踏んで紹介します。
はじめに、評価目的を設定します。人事評価目的には、モチベーション向上による生産性アップや、離職率を下げるための正当評価と正当報酬の設定、適正配置のための能力把握のいずれかが設定されることが一般的です。
次に設定した評価目的にもとづき、目的を達成できるための評価基準を「能力評価」「業績評価」「情意評価」の3つに分けて作成します。
そのあと具体的な評価項目とルールを決定することも必要です。職種に合った評価項目と、何段階評価にするかといった評価ルールの設定を行います。例えば職種がシステムエンジニアであれば、提案力や問題解決力やコミュニケーション能力、論理的思考力などを評価項目に設定するといった具合です。
実際のエンジニア評価シートについては、インターネット上でテンプレートも入手できますので、評価項目を参考にするとよいでしょう。
- エンジニアの評価に対する不満にどのように対処すればよいですか?
-
エンジニアの評価に対する不満の原因として、評価制度の不透明性や不公平感による制度への不信感が考えられます。
対処法としては、評価の目的と基準を明確にし、エンジニアに周知することが重要です。また評価制度を作成・更新する場合には、現場のエンジニアへのヒアリングを行い意見を聞くことも大切です。
公平性のある評価基準を確立するためには、自己評価を加えるほか、成果以外の業務工程も評価できるよう、複数視点の評価基準を設けることが望ましいです。一般にはピアレビューや360度評価などの手法が取り入れられることが多いです。
評価を的確に報酬に反映する仕組みを作ることも、エンジニアの満足度向上と成長促進を図るうえで重要なポイントです。評価を報酬に反映している企業の中には、スキル面の評価を給与に、成果面の評価をボーナスに反映している所もあります。また、等級を数十段階と細かくすることで、自身のスキルアップを実感しやすい仕組みを作っている企業もあるようです。
自社エンジニアの実情に合わせ、最適な評価方法と報酬への反映方法を検討しましょう。
- エンジニアの評価項目として、何を重視すべきですか?
-
エンジニアの評価項目は「能力評価」「業績評価」「情意評価」の3つからバランスよく設定することが大切です。
具体的な評価シートの項目例としては、「担当分野の知識」「プロジェクト達成への情報分析や対応」「業務をミスなく完遂」「チームメンバーとの連携」などが挙げられます。
評価すべきスキルには、技術だけでなくコミュニケーション能力やマネジメント能力、問題解決能力などのソフトスキルも含まれます。ソフトスキルを評価するためには、ピアレビューや360度評価などの複数視点での評価が有効です。
こうした複数視点から評価を受けたエンジニアは、自身の評価に納得できることが多いです。また、目標に紐づいた評価基準であれば、自身の到達点を把握できるため、モチベーションも上がるでしょう。
プロジェクトの成果だけで評価せず、個々の業務姿勢を適切に評価することで、エンジニアは新しい技術の開発や、成果が出るまでに時間のかかるプロジェクトにも、意欲的に参加できます。結果として、企業の業績と競争力の向上につながることが期待できます。
- エンジニアの評価が難しい理由は何ですか?
-
エンジニアの評価制度に次のような課題を抱える企業が多いです。
- 短期で成果が出ない長期プロジェクトでの評価が困難
- エンジニアを適正に評価できる人材の不足
- 客先常駐型エンジニアの勤務状況や態度を把握しづらい
エンジニアの仕事は数値で業績を把握できる営業などと異なり、定量評価することが困難で、評価が属人化しやすい傾向にあります。また、個人の評価がプロジェクトの成果に左右されやすいことも、評価を難しくしている一因です。
エンジニア評価の課題を踏まえ、評価に公平性・透明性を持たせるための改善案は、次のとおりです。
- 評価の目的を明確化し、明確な評価基準を定め共有する
- 評価基準は現場のヒアリングをもとに定める
- 定性評価と定量評価を組み合わせる(頻度や期限を設定する、点数をつけるなど)
- 複数視点で評価を行う(自己評価も取り入れる、仕事の取り組み姿勢も評価するなど)
事業の成長や取引関係の変化によっても、エンジニアに求められる評価基準は変化します。そのため、エンジニアの評価制度を定期的に見直すことも重要です。
まとめ
エンジニアに対する評価は簡単ではなく、ビジネス環境の変化により見直しも必要です。
評価基準に公平性と透明性を持たせるために重要なことは、評価基準に専門技術のほかソフトスキルも考慮すること、特定の評価者だけでなく複数の視点から評価を行うことです。本人が評価に納得できるよう自己評価も取り入れ、適切なフィードバックも欠かせません。
エンジニアを適切に評価することで、自社へのエンゲージメントが向上し組織の生産性を高めることが可能です。今回の記事を参考に、自社エンジニアへの評価方法を確立し、最適な評価制度を設定してください。