厚生年金とは?国民年金との違いや加入条件、計算方法などを解説
厚生年金は公的年金の1種であり、加入しておけば老後に年金を受け取れるため、重要な制度です。しかし、厚生年金は複雑で仕組みの理解が難しく、自分が将来どれくらい年金をもらえるのか不安に感じる場合もあるでしょう。
今回の記事では、厚生年金の基本的な仕組みや国民年金との違い、加入条件などについて紹介します。
厚生年金とは何か?
厚生年金は国民年金と並ぶ公的年金制度のひとつであり、仕組みや国民年金との違いを正しく理解しておく必要があります。
まずは厚生年金の特徴について見ていきましょう。
厚生年金制度の歴史とその目的
厚生年金とは、1942年から始まった公的年金制度であり、日本の社会保障制度の中でも重要です。厚生年金制度は、戦後の復興期における社会保障制度のひとつであり、1959年には被保険者の範囲の拡大、1961年には厚生年金基金が設立されるなど、政府が積極的に整備してきました。
厚生年金制度の目的は、労働者の退職後の生活保障や社会的安定を図ることです。厚生年金は、被保険者が年金保険料を納付し、一定の条件を満たせば受け取れます。
厚生年金の基本的な仕組み
厚生年金の保険料は、被保険者の給与や所得に応じて変わります。厚生年金保険料は事業主がまとめて納めるため、従業員の場合給与から天引きされる形で支払われます。
月々の給与から徴収する保険料=標準報酬月額×従業員負担分の保険料率
雇用主は被保険者と同様に保険料を負担する必要があり、従業員の分を半分負担する義務があることが特徴です。また、厚生年金の給付内容は主に下記3つです。
- 老齢年金
- 遺族年金
- 障害年金
老齢年金は、被保険者が一定の年齢(通常は65歳)に達した場合に支給される年金です。遺族年金は、被保険者の死亡時に配偶者や子どもに支給されます。また、障害年金は、労働能力が障害により制限された場合に支給される年金です。
厚生年金は基本的に労働者であれば加入が義務付けられており、加入手続きは労働者が所属する会社や雇用主を通じて行われます。
厚生年金と国民年金の違い
厚生年金と国民年金は、日本の社会保険制度における主要な年金制度ですが、両者には違いがあります。
まず、厚生年金は、労働者や一定の事業所に所属する者を対象とするのに対し、国民年金は、農業や漁業に従事している方や自営業者など、広範な範囲の国民が対象です。
また、保険料と給付額に関しては、厚生年金の保険料は給与に応じて計算されるのに対し、国民年金の保険料は1ヵ月当たり16,520円と一定額です。厚生年金の保険料は所得に応じて増えるため、月収が上がれば、将来的に受け取る金額も増えていきます。
厚生年金の加入条件
基本的に会社に勤務している70歳未満の労働者には、厚生年金への加入義務があります。手続き方法や加入資格について詳しく見ていきましょう。
厚生年金の手続き方法
厚生年金への加入は基本的に事業所単位で行うため、労働者が手続きをする必要はありません。
退職などで所得が大幅に変動した場合は、標準報酬月額が変わる可能性があるため、厚生年金の保険料や給付額も増減する場合があります。所得変動があった場合には、早めに社会保険事務所や年金手帳の窓口で手続きを行うことが必要です。
また、厚生年金の給付を受けるためには、国から送付される年金請求書に必要事項を記載し、年金事務所に提出する必要があります。年金を受け取れる年齢になってから請求をせずに5年が経過すると、法律に基づいて年金が受け取れなくなる可能性があるため、注意してください。
(出典:日本年金機構「老齢年金の請求手続き」)
どのような人が厚生年金の加入資格があるの?
厚生年金の主な加入対象者は、会社に勤めているサラリーマンや公務員など、70歳未満の労働者です。基本的に就業開始日から厚生年金に加入することが義務付けられています。
就業規則や労働契約などに定められている1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が4分の3以上ある従業員の場合、加入対象となります。また、アルバイトやパートなどの短時間労働者でも、下記条件を満たす場合は加入資格があるため注意が必要です。
出典:(日本年金機構「年金Q&A 会社に勤めたときは、必ず厚生年金保険に加入するのですか。」)
- 週の所定労働時間が20時間以上ある
- 賃金の月額が8.8万円以上である
- 学生でない
自営業者やフリーランスは加入できるか?
厚生年金保険は事業主に雇われている労働者向けの年金制度のため、フリーランスや自営業者の場合、基本的に厚生年金保険に加入できません。もし、退職して会社員からフリーランス、自営業者となった場合、自分で国民年金への加入手続きを行う必要があります。
また、フリーランスや自営業者は国民年金のみの加入となるため、老後にもらえる年金の給付額はその分少なくなります。老後資金を増やしたい場合、国民年金の上乗せとして加入できる国民年金基金や個人で積立を行うiDeCoを利用しましょう。その他、フリーランス、個人事業主向けの積立型退職金制度である小規模企業共済なども活用できます。
資格の失効と再加入のルール
厚生年金の資格を失効する条件は、従業員が退職・転勤・死亡した場合か、従業員が70歳以上になった場合です。
70歳以下で、退職後に別の会社に入社した場合、勤務先が年金事務所に届け出ることで厚生年金に再加入できます。本人が手続きを行う必要はありません。
また、70歳以上で、老齢基礎年金(国民年金の受給資格期間が10年以上ある場合、65歳から支給される年金)の受給資格がない場合、老齢基礎年金が受給可能になるまで任意で厚生年金保険に加入できます。その場合は、「高齢任意加入被保険者資格取得申請書」を年金事務所に提出する必要があります。
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厚生年金の給付内容
長期間保険料を納める年金制度は、結果的にいつからどのくらい受給できるのか気になるケースも多いでしょう。ここでは、厚生年金の受給金額計算方法などについて紹介します。
厚生年金の給付額の計算方法
厚生年金の受給金額は、以下の計算式に基づいて算出されます。
老齢厚生年金額 = 報酬比例部分 + 経過的加算 + 加給年金
それぞれの計算方法について、下記で詳しく解説します。
報酬比例部分の計算方法
報酬比例部分は、厚生年金の加入期間に支払った保険料の金額に応じて計算します。平成15年(2003)3月以前と以降で計算方法が変わります。
- 平成15年3月以前
報酬比例部分 = 平均標準報酬月額 × 7.125 / 1000 × 平成15年3月までの加入期間の月数
※平均標準報酬額 = 平成15年3月以前の加入期間における各月の標準報酬月額の総額 / 平成15年3月以前の加入期間の月数
- 平成15年4月以降
報酬比例部分 = 平均標準報酬額 × 5.481 / 1000 × 平成15年4月以降の加入期間の月数
※平均標準報酬額 = 平成15年4月以降の加入期間における各月の標準報酬月額+標準賞与額の総額 / 平成15年4月以降の加入期間の月数
経過的加算の計算方法
経過的加算は、厚生年金の加入期間に応じて設定されます。
経過的加算 = 1,621円(令和4年度) × 生年月日に応じた率(昭和21年4月2日以降に生まれた場合は「1」) × 加入期間の月数 - 老齢基礎年金の額
加給年金額の計算方法
加給年金額は、被保険者期間が20年以上で、生計を維持する配偶者や子どもがいる場合に加算されます。
(出典:日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」)
給付開始のタイミングと条件
厚生年金の老齢厚生年金の給付開始期間は、原則として65歳からです。
希望すれば、60歳から65歳の間に繰り上げて受け取ることも可能です。ただし、この場合は給付金が減額される点に留意する必要があります。減額率は、繰り上げ請求日から65歳の誕生日までの月数によって決定されます。減額率は最大で24%ですが、この率は1度決定されると、その後は一生変わることはありません。
減額率 = 繰り上げ請求日から65歳の誕生日までの月数 × 0.4%
一方、66歳から75歳までの間で年金受給開始を遅らせることもできる制度が存在します。この場合、年金を遅らせた期間に応じて増額される特典があります。最大増額率は84%で、こちらも1度決まると変更されません。
増額率 = 65歳に達した月から繰り下げ申出月の前月までの月数 × 0.7%
(出典:日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」)
厚生年金の給付の種類
厚生年金の給付金は、老齢厚生年金、遺族年金、障害年金の3種があります。それぞれの特徴と違いについて解説します。
種類 | 受給対象者 | 給付条件 | 特徴 |
---|---|---|---|
老齢厚生年金 | 原則65歳以上 | 国民年金・厚生年金の加入期間が合計10年以上であること | 加入期間によって給付額が変わる |
遺族厚生年金 | 厚生年金の被保険者の遺族(配偶者・子・両親) | 亡くなった厚生年金の被保険者が加入期間の3分の2以上を納付済みであること受 給者の年収が850万円以下であること | 給付額は老齢厚生年金の約4分の3 |
障害厚生年金 | 1~3級までの障害の認定基準に当てはまること | 初診日に厚生年金に加入していること 初診日の前々月までに加入期間の3分の2以上で保険料を納付していること 初診日に65歳未満で、前々月までの1年間に保険料の未納が無いこと | 障害等級が高いほど増額される 1~2級の受給者に配偶者がいる場合は加給年金が支給される |
(出典:日本年金機構「老齢厚生年金」、「障害年金」、「遺族厚生年金」)
厚生年金の保険料について
厚生年金の保険料は給与から天引きで支払われるので、普段あまり具体的な金額を意識する機会は少ないかもしれません。ここでは、厚生年金の保険料の計算方法について解説します。
保険料の計算方法
厚生年金保険料は、従業員と事業主が折半して支払われる月々の保険料です。2023年現在の保険料率は18.3%で、このうち従業員が負担する分は9.15%です。以下で、保険料の計算方法について詳しく説明します。
月々の給与から支払う厚生年金保険料
月々の給与から支払う厚生年金保険料は、標準報酬月額に従業員負担分の保険料率(9.15%)を掛けることで算出されます。
たとえば、標準報酬月額が30万円の従業員の場合は以下の通りです。
月々の厚生年金保険料 = 30万円 × 9.15% = 27,450円
賞与から支払う厚生年金保険料
賞与から支払う厚生年金保険料は、標準賞与額に従業員負担分の保険料率(9.15%)を掛けることで算出されます。
たとえば、標準賞与額が40万円の従業員の場合は以下の通りです。
厚生年金保険料 = 40万円 × 9.15% = 36,600円
(出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)
保険料の支払い方法
厚生年金の保険料は、基本的に事業所が年金事務所に支払うため、従業員が直接支払い手続きを行う必要はありません。事業所は、給与から従業員が負担する保険料をあらかじめ天引きした額を従業員に支給します。
万が一、従業員が所属していた企業が保険料未納のままで倒産しても、従業員の年金給付額には影響ありません。保険料の支払いは事業所に責任があるため、事業所側の理由で未納になった保険料分は、年金支給時に納付分とみなされます。
保険料の減免制度
厚生年金の保険料は18.3%となっていますが、厚生年金基金に加入している場合、保険料の免除を受けられます。
厚生年金基金は、企業が独自に運営する年金制度であり、従業員の厚生年金の保険料に上乗せした金額を拠出することで、プラスアルファの年金給付を行う制度です。厚生年金基金に加入している従業員は、厚生年金の保険料率から一定の割合が免除されます。保険料の減免率は、2.4%から5.0%の範囲内で、加入している基金によって異なります。
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厚生年金と退職金・企業年金との関連性
ここからは、厚生年金と混同されやすい退職金や企業年金について詳しく説明します。
厚生年金と退職金の違い
退職金は、企業から従業員が退職する際に受け取れる一時金のことを指します。企業によって退職金制度の有無や支給条件は異なります。
多くの企業では、従業員の勤続年数や勤務実績に応じて退職金が支給されることが一般的です。退職金は、退職者の経済的な補償や生活の安定化をサポートするための手当として位置づけられています。
一方、厚生年金は、加入者が保険料を納めることで、原則65歳になったら受け取れる公的な年金制度です。退職金のように一括ではなく、納付した保険料に応じて月々給付金が支払われます。
厚生年金と企業年金の違い
厚生年金は、会社員や公務員が国民年金と合わせて加入する公的な年金制度です。「事業主に雇われている」などの加入要件を満たしている場合は、必ず厚生年金に加入する必要があります。厚生年金は、退職後に定年を迎えた際に、月々の年金給付を受け取れます。
企業年金は、会社や個人が負担して加入する私的な年金制度です。公的な年金制度である厚生年金や国民年金に上乗せした形で給付金を受給できる点が特徴です。企業年金の加入は任意であり、会社の規定や個人の選択によって加入するかどうかが決まります。また、企業年金の制度や支給額も企業ごとに異なります。
厚生年金の問題点と展望
「年金は将来的に減額されるのでは」という不安の声もよく聞かれます。ここでは、厚生年金の将来的な支給額や、現役世代がとるべき対策について解説します。
将来の厚生年金の給付額
厚生労働省が2019年に発表した試算によると、今後20年で経済成長が進み、物価上昇率や賃金上昇率などの条件を満たした場合、将来の厚生年金の給付額は上昇する見込みです。
2020年度の厚生年金の月額給付額は、平均的な夫婦2人で約22万円でしたが、試算によれば、2040年度には経済成長が進み、物価上昇率2%、賃金上昇率1.6%の条件を満たした場合、平均的な夫婦2人の受給額は月額25万円になるとされています。この見込みでは、額面上は上昇するという予測です。
しかし、現代の日本では少子化が進むため、将来的な労働人口の減少が予測され、経済成長が順調に進むとは考えにくい状況です。もし物価上昇率や賃金上昇率が0.8%に留まった場合、2040年度の年金額は約20万8000円となり、現在よりも減額するでしょう。今後の社会情勢によっては、更に減額する可能性もあり得ます。
(出典:厚生労働省 「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」)
厚生年金の改革とは
2022年4月に実施された年金制度改正法により、厚生年金の制度が改革されました。主要な変更点を2点解説します。
短時間労働者の厚生年金加入対象化
従来、厚生年金の加入対象者は、「週の所定労働時間が30時間以上」などの一定条件を満たすことが必要でした。しかし、改革により、従業員数101人以上の企業で、週の所定労働時間が20時間以上で月額賃金が8.8万円以上あり、かつ2ヵ月を超える雇用の見込みがある労働者も厚生年金の加入対象になりました(2024年10月からは従業員数51人以上の企業も対象)。
そのため、短時間で働く労働者も厚生年金に加入できるようになり、社会保障の範囲が拡大されています。
年金の受給開始期間の拡大
改革により、年金の受給開始期間が60歳から75歳まで自由に選択可能となりました。従来は65歳からの受給が一般的でしたが、今後は60歳から受給を開始することも選択肢として選べます。
この改革により、労働者は自身のライフプランに合わせて年金の受給開始時期を選択できるようになり、より柔軟な年金制度が実現されました。
厚生年金の未来と対策
将来、労働人口の減少によって厚生年金の給付額が減額される可能性が高まっています。同時に、企業が支給する退職金の給付額も減少している傾向があります。これらの社会的な変化に対応するため、現役世代は資産形成に対する対策を講じることが重要です。
たとえば、リスクを抑えつつ長期的に資産を増やす方法として、積立投資がおすすめです。特に、つみたてNISAやiDeCoといった制度を活用することで、非課税での投資が可能です。つみたてNISAは20年間非課税で運用ができ、iDeCoは個人型確定拠出年金として税制優遇を受けられます。これらの制度を利用することで、初心者でもローリスクで投資を始められます。
また、ファイナンシャルプランナーに相談することで、自身の目標やライフスタイルに合わせた資産運用や節税対策を立てるのも有効です。
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よくある質問(FAQ)
ここからは、厚生年金に関するよくある質問に関して回答します。
- 厚生年金の最低加入期間は何年ですか?
-
国民年金と厚生年金の加入期間が合わせて10年以上の場合、老齢厚生年金を受け取れます。その条件さえ満たしていれば、厚生年金の加入期間は1ヵ月でも問題ありません。
- 老齢厚生年金とは何ですか?
-
老齢厚生年金とは、厚生年金保険に加入した期間があり、老齢基礎年金の受給要件を満たしている場合(国民年金と厚生年金の加入期間が合わせて10年以上の場合)、原則65歳から老齢基礎年金にプラスして受け取れる年金のことです。
- 国民年金とは何ですか?
-
国民年金とは、日本国内に居住する20歳以上60歳未満の方が対象の年金制度です。20歳から60歳までの保険料をすべて支払うと、満額で老齢基礎年金を受給可能です。受給は原則65歳からです。
- 厚生年金と国民年金、両方を同時に払うことはありますか?
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厚生年金と国民年金は、原則両方支払うことはありません。厚生年金の保険料に、国民年金分の保険料も含まれているためです。もし、既に国民年金を前納した状態で就職した場合は、保険料の還付請求を行えば重複した支払い分が戻ってきます。
一方、月末までに退職した場合、退職当月から国民年金の支払義務が発生します。その場合、退職した事業所が退職月分の厚生年金の保険料を退職者に返金します。
厚生年金制度を理解して、老後の資金対策を立てよう
厚生年金は会社員、公務員向けの公的年金で、国民年金のみの場合よりも多くの年金を受け取れます。一方、今後の社会情勢次第では、将来的に支給額が減額される可能性もあるでしょう。
長期の投資信託など、個人で老後用の資産を形成する方法をぜひ模索してみてください。