ジョブローテーションとは?導入する方法や成功事例を解説!
ジョブローテーションを導入しようとしても、本来の意味や具体的な手法が分かりづらいと感じる方も多いでしょう。
ジョブローテーションは、企業に精通した社員を育成するうえで必要不可欠です。また、従業員の新たなキャリアを見つけるきっかけにもなり、有効な人員配置にも役立ちます。
この記事では、ジョブローテーションの意味や目的、具体的な導入・実践方法を解説します。ジョブローテーションについて網羅的に理解できる内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
ジョブローテーションとは何か?
まずは、ジョブローテーションについて以下2点を解説します。
ジョブローテーションの意味や定義を理解することはもちろん、歴史や起源を知ることで、理解を深めることができます。
ジョブローテーションの意味と定義
ジョブローテーションとは、一人の従業員にさまざまな業務を経験させるために、定期的に部署や職務を変更することを指します。
一般的には、特定の部署で1年から2年程度の期間経験を積んだのち、その部署の別の職務についたり、他部署へ異動したりします。
例として、ジョブローテーションには以下のようなケースが挙げられます。
- 例1:生産管理部門で経験を積んだのち、情報システム部門へ異動する
- 例2:情報システム部門で、インフラ管理業務の経験を積んだのち、システム開発業務を担当する
上記「例1」では、生産管理部門で経験を積むことで、自社製品の生産工程について詳しくなります。その経験を持って情報システム部門へ異動することで、高品質なシステム提案ができるようになると考えられます。
また「例2」では、システム開発業務を行う前に、インフラ管理業務を行っておくことでPC基盤に詳しくなり、システム設計の選択肢が増えます。
このように、さまざまな業務を経験させることにより、社員の人材開発を有効的に行うことができます。
ジョブローテーションの歴史と起源
20世紀初頭は、フレデリックテイラーにより提唱された、科学的管理法(テイラー主義)という考え方が主流でした。これは、労働者の作業を細分化し、特定のタスクのみを遂行させることで生産性向上を図る手法です。
しかしこの方法には、労働者の作業がマンネリ化してしまい、業務に対するモチベーションが下がるという問題点がありました。
この問題点に対処するため、20世紀の西洋の企業文化では、従業員のスキルを多様化し、彼らの飽きや疲れを防ぐ方法としてジョブローテーションが導入されました。このアプローチは、従業員がさまざまな役職や職務を経験することで、視野を広げ、組織の多様な部門や職種への理解を深めることを目的としています。
近年、テクノロジーの急速な発展とともに、組織は様々な変化に柔軟に適応する必要が増してきました。このような変化への適応力を持つ「ゼネラリスト」の人材を育成する方法として、ジョブローテーションが非常に注目されています。
ジョブローテーションの目的
ジョブローテーションには、従業員のキャリアアップや新しいスキルを効率的に獲得させるという目的があります。また、さまざまな業務経験を積むことで、多角的な視野を持って業務を遂行できるようになります。
ここからは、ジョブローテーションの従業員に対するメリットと、スキルセット・キャリアの進展について解説します。
従業員に対するメリット
ジョブローテーションが従業員にもたらすメリットは以下の3つです。
- 多角的な視野の獲得
- 人間関係の構築
- 自身のキャリアパスを明確に見る機会の提供
ひとつの部署で特定の業務しか行っていない場合、対象の従業員の視野が狭くなります。これにより、他部署の業務都合やフローが見えず、他部署との業務遂行に支障が出るケースもあります。
ジョブローテーションを行えば、さまざまな業務へ携わることになり、幅広い業務知識を会得することが可能です。これに際して多角的な視野を持って、業務を遂行することができます。
また、複数部署を異動することで、幅広い人間関係が構築できます。例えば、情報システム部門から営業部門へ異動した場合、部門内で「パソコンに詳しい人」として非常に重宝され、営業部門やその関連部門と関わる機会が増えるのです。
これにより業務を遂行する際に、部署内だけでなく部署外からのアドバイスも期待でき、業務のクオリティが向上すると考えられます。
さらに、多くの業務経験を積むことで、新たなスキルや知識を習得できます。自身の適性や興味のある分野を見つけることができ、別のキャリアパスを描く機会にもなります。
スキルセットとキャリアの進展
従業員が将来的に、組織の幹部や役員となる場合、職種をまたいだスキルセット(特定の業務を遂行するために重要となる技術と知識、経験の組み合わせ)の獲得は必要不可欠です。
組織の幹部は、自身が所属する部署以外の社員との交渉や、折衝が必要となりますが、他部署の業務を理解していなければ、スムーズに交渉を進めることができません。
よって幹部社員には、円滑な組織運営を行うために、職種をまたいだスキルセットの獲得が求められます。
ジョブローテーションを数年単位で行えば、自部署以外の業務に触れる機会が増え、幅広い業務知識を効率的に吸収可能です。優秀なゼネラリスト幹部社員を育成したい場合、ジョブローテーションは非常に有効な手段となります。
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ジョブローテーションの成功事例
当セクションでは、企業におけるジョブローテーションの成功事例をご紹介します。成功事例から、ジョブローテーションを成功させる要因を学びましょう。
企業におけるジョブローテーションの事例
自動車や航空、交通産業、インフラ・ヘルスケアなどをはじめ、さまざまな事業を展開する大手総合商社である双日株式会社は、ジョブローテーションを通じて企業の活性化に成功しています。
同社のジョブローテーションは、新卒として入社してから10年間という、非常に長期間実施される点が特徴です。一人の社員に対して、さまざまな部門の業務での経験を通じて、多様なスキル・専門知識を取得させることを目的としています。
ジョブローテーション制度の導入により、さまざまな職務に触れる機会ができ、特定の部門で自身の強みを発揮できないまま終わってしまうというケースがなくなりました。
また、上司が優秀な人材を手放さず、他部署へ移動できないといったケースも排除でき、社員・組織ともにジョブローテーションの恩恵を受けられた事例です。
ジョブローテーションを成功させる要因
ジョブローテーションを成功させるには、本人の意思や適性を考慮して実施することが必要不可欠です。
ジョブローテーションは、無計画に社員を異動させたとしてもあまり効果が得られません。例えば、プログラマーとしてのスペシャリストを目指す社員に対し、営業など全く関係ない部署へ異動させるジョブローテーションは不向きです。
この場合、インフラ系の知識を強めるため、システム開発部門からインフラ管理部門への異動を行うなど、本人のキャリアプランに沿ったジョブローテーションを実施しましょう。
また、異動後の社員をサポートすることも必要不可欠です。適切な教育を行い、効率よく有意義に成長できるような環境整備を実施しましょう。
環境変化に伴うストレスや、人間関係のトラブルが無いかなど、メンタル面のケアも欠かさず行う必要があります。
ジョブローテーションの課題とデメリット
ジョブローテーションには、専門性の高い知識を身につけづらいことや、異動直後に社員の生産性が下がるなどのデメリットがあります。
ここからは、ジョブローテーションにおける課題や障害、デメリットに対して対処する方法を解説します。
課題と障害
ジョブローテーションには、以下のような課題があります。
- スペシャリストを育成しにくい
- 大規模プロジェクトを任せづらい
- 社員のモチベーション低下
ジョブローテーションには、専門性の高いスペシャリストを育成するのに時間がかかるという課題があります。特にローテーション期間が短いほど、その部署で獲得できるスキルを深めることができず、「広く浅く」しか知識を得ることができません。
また、所属する部署や管理者次第では、業務を教えてもすぐに異動してしまうからと、大規模プロジェクトを任せられず、遂行する仕事は定型業務のみというケースもあります。
これらのケースに該当すると、スペシャリストを求める社員や、業務知識を深めたいという社員のモチベーションが下がります。
このように適切なジョブローテーションを行わない場合、生産性の低下や離職など、さまざまなリスクを招く可能性があります。
デメリットと対処法
ここまで説明した課題を解決するには、以下を行う必要があります。
- 社員との綿密なコミュニケーション
- 部門移動後のフォロー
まずは社員との綿密なコミュニケーションを行い、適性を判断する必要があります。社員がどのようなキャリアプランを描いているか、ジョブローテーションを求めているかなどを、事前にしっかりと確認しましょう。
例えば、エンジニアが情報システム部門の管理職になりたい場合、システム開発以外のIT関連知識を幅広く会得するためにインフラ部門へ配属するなど、社員のキャリアプランを達成できるようなジョブローテーションが求められます。
他部門へ配属されると、職場環境や業務内容の変化から社員はストレスを感じます。そのため、ジョブローテーションを行った後は、定期的にミーティングを行い、状況確認やメンタルケアを行うようにしましょう。
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ジョブローテーションの導入方法
続いて、ジョブローテーションの具体的な導入方法を解説します。
ジョブローテーション導入の際は、まずプランニングと目標設定を行います。そして実施したのちに評価・反省を行います。
プランニングと目標設定
「目的・ゴール」が社員側に共有されていないと、不信感から不満につながる可能性があります。よってジョブローテーションを行う際は、事前のプランニングと目標設定・共有が必要不可欠です。
例えば、営業部門の人が、より自社製品の仕組みや構造に理解を深めるために、製造管理部門へジョブローテーションを行うなど、具体的な目的ゴールを共有しておきましょう。
そのうえで、いつまでジョブローテーションを行うのか、何を達成すればいいのかなど「目的・ゴール」を具体的に計画し、社員と組織側で共有しておきましょう。
実施と評価
プランニングと目標設定が終われば、実際にジョブローテーションを実施します。実施すれば終わりではなく、社員のサポートや内容の評価が非常に大切です。
社員と定期的に1対1の面談を実施して、目的・ゴールへの進捗確認や、モチベーション確認などを行いましょう。このフォローを怠ると、社員のモチベーション低下や、離職につながる恐れがあります。
「定められた期間で目的は達成できそうか」といった進捗確認はもちろん、「新しい部署でトラブルはないか」「不明点や不安なことはないか」などといったメンタルケア・モチベーション確認など、細かいフォローを実施しましょう。
ジョブローテーションと他の人材開発手法との比較
当セクションでは、ジョブローテーションと、以下の人材開発手法との違いをそれぞれ解説します。
それぞれ異なる意味を持つ言葉ですので、混同しないよう心がけましょう。
メンターシップ、インターンシップとの違い
メンターシップとは、新入社員に対して年の近い先輩社員が「メンター」となり、対話をしながら助言・指導をする人材育成手法です。
上司が指示を行うのではなく、メンターが新入社員の悩みをヒアリングし、自身の経験を共有することで新入社員に気づきを与えます。これにより、自主性を育てることや、メンタルケアを行うことを目的とします。
これに対しジョブローテーションは、社員の成長のために定期的な部署移動を行い、新たなスキルを習得させることを目的とした、人材育成手法です。
このように、メンターシップとジョブローテーションは目的が異なります。
また、インターンシップとは、学生が就職前に企業で仕事を体験することです。実際に企業で仕事を体験することで、その企業や業界で働くことをイメージしやすくなるというメリットがあります。
これはあくまで学生向けの制度であるため、対象者が異なります。
人事異動との違い
人事異動とは、組織内で社員の役割や配置を変更することを指します。社員の部署や職務を変更するという点では、ジョブローテーションと同じですが、「誰のために実施されるか」という点が異なります。
人事異動は一般的に、新規部門立ち上げに伴う人員配置や、欠員の補充など、「組織のため」に実施されるという側面が強いです。
一方で、ジョブローテーションは社員の育成を目的とした人材開発手法であり、社員の新たなスキル取得や、キャリアアップのために実施されますので、「社員のため」に実施されます。
このように双方は、組織と社員どちらのために実施されるかという点が異なります。
社内公募制度との違い
社内公募制度とは、企業側が特定の部署・職務内容等の条件を公表し、希望者を募ったうえで人員配置を決定する制度です。公募されている内容には社員が自由に応募できるため、自発的応募による社員のモチベーションのアップが図れます。
しかし、企業は組織内で空いているポストを公募することから、求める部署の公募がなければ当制度を活用することはできません。
一方で、ジョブローテーションは社員の成長のため、適切な部署・職務へ計画的に人員配置を変更します。
このように社内公募制度が「社員の自主性」を重んじる制度であるのに対し、ジョブローテーションは「社員の成長」にフォーカスした制度であるという違いがあります。
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「ジョブローテーション」に関するよくある質問(FAQ)
最後に、「ジョブローテーション」に関する、よくある質問(FAQ)をご紹介します。
- ジョブローテーションは時代遅れと言われますが、本当にその通りですか?
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ジョブローテーションが時代遅れと言われる理由は、転職するのが普通と考える人が増えているためです。
昔は一つの企業に勤め上げる「終身雇用」が当たり前でしたが、少子高齢化に伴い、終身雇用の維持が困難となっています。これに際し、よりよい待遇の環境を持つ企業や、豊富な経験ができる企業への転職を求める人が増えています。
ジョブローテーションは、数年間かけてさまざまな部署を渡り歩き、幅広い知識やスキルを習得することを目的とした制度です。
一つの企業に身を置き続けるのではなく、転職が当たり前の時代となったため、ジョブローテーションは「時代遅れ」と言われます。
- ジョブローテーション制度の導入にはどのようなステップが必要ですか?
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ジョブローテーションを導入する際は、まず対象社員と面談を行い、社員のキャリアプランを確認します。その内容をもとに、何のために、いつまでジョブローテーションを行うかなどを明確にし、目標・ゴールを共有しましょう。
そして、ジョブローテーションを実施した後は定期的に面談を行います。目的・ゴールへの進捗確認や、モチベーション確認などを行うことで、社員が適切にキャリア形成できているか、不満を溜め込んでいないかなどを定期的に確認しましょう。
- ジョブローテーションの無駄をどう排除すればよいですか?
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業務の専門性を極めたい人の中には、ジョブローテーションが無駄と感じてしまうケースがあります。
確かに、極めたい分野からかけ離れた部署へ異動すると、スキル形成が無駄になってしまうことも考えられます。しかし、ジョブローテーションには多角的な視野を持つという目的もあり、この観点が活用できない仕事はありません。
スペシャリストを目指す社員には、部門内で別の職務を任せるなど、ミニマムなジョブローテーションを行い、多角的な視野を広げることを目標としましょう。
- ジョブローテーションの経験があると転職が困難になる理由は何ですか?
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ジョブローテーションを短い期間で何度も行っている場合、「専門性が低い」と判断され、転職時に不利になる可能性があります。
自身が転職を考えている場合、転職活動時に有利になるように、主体性を持ってジョブローテーションに取り組むことが重要です。
将来転職したい業界を見据え、その業界で働くにはどのようなスキルが必要か、どの部署へ配属されると知識が身につくかなどを考え、ジョブローテーションの面談時に交渉しましょう。
まとめ
今回の記事では、ジョブローテーションの意味や目的、具体的な導入方法などを解説しました。
ジョブローテーションの効果を最大限に発揮するには、社員の適性を見極め、適切な内容で実施することが求められます。ジョブローテーションを正しく実践し、幅広い業務知識を教育することで、自社に精通した人財育成を推進しましょう。