整理解雇とは?通常の解雇との違いや法的条件と要件を解説!
整理解雇とは、企業の経営状況悪化に伴い、労働コストの削減を目的に行う解雇です。
整理解雇には法律上さまざまな要件があり、手続きや解雇理由が不適切だと、裁判トラブルを引き起こすリスクがあります。
当記事では、整理解雇と通常の解雇との違いや、適用する法的要件、適切な手続き方法を詳しく解説します。
整理解雇の基礎知識
整理解雇とは、経営環境の変化や業績の悪化により、労働コストの削減を目的とする解雇を指します。
まずは整理解雇の基礎知識を理解したうえで、通常の解雇との違い、そして整理解雇が必要とされる背景や理由を確認していきましょう。
「整理解雇」とは?
整理解雇とは、企業の経営状況などにより、労働者の一部または全部を解雇することを指します。業績が低下している場合や、組織経営の合理化が求められる場合など、特定の要因にもとづいて行われます。
重大な過失を行った労働者に適用される「懲戒解雇」に対して、整理解雇は労働者の意思とは関係なく、あくまで企業側の事情で適用される解雇です。
解雇の適用については、労働者が会社都合で職を失い生活に困窮することから守るため、以下の法律が定められています。
> 労働契約法 16条
引用元:e-Gov法令検索 – 労働契約法
>解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
このため、企業は簡単に整理解雇を適用できないことを理解しておきましょう。
通常の「解雇」との違い
通常の解雇は、労働者の業務成績・態度が悪い場合、また無断欠勤や遅刻を繰り返す場合など、労働者側に何らかの問題がある場合に適用されます。
例えば以下のようなケースは、整理解雇ではなく通常の解雇が適用されます。
- 企業の能力基準に著しく達していない
- 上司の指示をまったく聞かず、業務の遂行が困難
- 無断欠勤や遅刻、必要性の低い早退を繰り返す
このように、労働者側に問題がある場合に、通常の解雇が適用されます。
一方で、整理解雇は先述のとおり、経営状況悪化によるコスト削減を目的とした人員削減など、企業側の理由で行われる解雇です。
労働者に原因がある通常の解雇とは違い、整理解雇は企業都合により非のない労働者が解雇されるため、両者を比較すると整理解雇の方が法的要件が厳しくなります。
整理解雇が必要とされる背景や理由
整理解雇は、企業の業績悪化に伴い、コスト削減が必要となった場合に行われます。
厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化に起因した「解雇」や「雇い止め」で仕事を失った人は、見込みも含めて10万人を超えているとみられています。
(出典:コロナ影響「解雇」「雇い止め」見込み含め10万人超に 厚労省)
外部環境の変動により業績が悪化した場合、給与の支払いが困難となり雇用が維持できなくなります。
このように、何らかの理由で企業の業績が悪化し大幅なコスト削減が求められる場合、整理解雇が必要とされます。
整理解雇の法的条件と要件
整理解雇の有効性は「整理解雇の4要素」に基づいて判断されます。
ここからは、整理解雇の4要素の詳細と基準、整理解雇が行われた裁判の事例について解説します。
整理解雇の4要件
整理解雇の4要件とは、企業が実施する整理解雇が有効かどうかを判断する基準です。
具体的には、以下4つの項目に基づき有効性が判断されます。
項目 | 概要 |
人員削減の必要性 | 人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること |
解雇回避の努力 | 配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと |
人選の合理性 | 整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること |
解雇手続の妥当性 | 労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと |
(出典:労働契約の終了に関するルール 厚生労働省)
以前は、整理解雇を行う場合は原則としてこれらの要件をすべて満たしている必要がありました。
例えば、企業が経営不振により業績が悪化していた場合でも、人員配置の変更や希望退職者の募集など、解雇を回避する努力を行っていなければ、整理解雇の適用は認められませんでした。
しかしこれら4要件は、大企業のように「ヒト」「モノ」「カネ」のリソースが豊富にあることを前提に作られたものです。中小企業では、配置転換先の部署がなく、解雇回避の努力ができないケースも少なくありません。
よって近年では、これらの要件を「要素」として捉え、各企業の経営事情や状況を総合的に判断し、整理解雇を認める判例も増えてきています。
法的基準と事例
整理解雇における法的基準は、先程解説した整理解雇の4要件にもとづき判断されます。
ここからは、整理解雇が適用された裁判例をご紹介します。
A社において、従業員84名を対象とした整理解雇が実施され、その有効性が問われました。
当裁判の第一審では、整理解雇の4要件が満たされていたにも関わらず「破産手続きの際と同様、整理解雇の4要件が機械的に適用されるべきではない」という主張から、整理解雇を無効と判断しました。
しかし第二審では、「当事案は破産手続きではなく、事業継続が前提とされている」ことや、「整理解雇の対象者を決める基準が客観的かつ合理的である」ことから、整理解雇が有効と判断されています。
このように、整理解雇の4要件が満たされていたとしても、整理解雇の適用可否における判断が分かれるケースがあります。
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整理解雇の手順と注意点
続いて、整理解雇の法的リスクを最小化する方法や、基本的な手続き方法、従業員との適切なコミュニケーション方法について解説します。
法的リスクの最小化
整理解雇を実施した際、解雇された労働者より不当解雇であるとして、裁判を起こされる可能性があります。
裁判においては、先ほど解説した「整理解雇の4要件」が満たされているかが争点となりますので、企業としては以下の対策を講じる必要があります。
- 人員削減が必要である根拠を示す資料の準備
- 整理解雇の実施前に、解雇以外の経費削減対策をする
- 解雇の対象者を客観的かつ合理的な基準で選定する
- 対象者・労働組合に十分な説明を行う
まずは、人員削減の必要性が証明できる資料が必要となります。
経営が赤字であること、もしくは余剰人員が発生していることを証明できる資料を準備しておきましょう。
また、解雇を回避するために、希望退職者の募集や、派遣・パート社員の削減、役員報酬の削減を実施したか等も確認されるポイントです。これらが不十分であると、解雇回避の努力が実施されていないと判断されます。
解雇の対象者は、客観的かつ合理的な基準で選定する必要があります。企業への貢献度・成績や、無断欠勤・遅刻の有無など、客観的に判断できる基準を用いて選定しましょう。
そして対象者と労働組合に十分な説明を実施し、協議を行ったかも問われます。上記準備物をもとに、整理解雇が必要となった背景や必要性を具体的に説明しましょう。
これらの対策を行うことで、法的リスクを最小化することができます。
基本的な手続き方法
整理解雇の基本的な手続き方法について、まずは先ほど説明したとおり、「整理解雇の4要件」が満たされるよう対策を講じます。
人員削減が必要である根拠を示す資料を準備し、解雇の対象者を客観的かつ合理的な基準で選定します。また、整理解雇を実行する前に、希望退職者の募集などをして解雇回避の努力を行いましょう。
労働基準法上、解雇を行う際は、30日前に解雇予告をしなければなりません。後から対象者に「聞いていない」と言われないためにも、解雇予告通知書を作成し交付しましょう。
解雇日には、解雇する対象者へ「整理解雇通知書」を書面にて交付します。解雇辞令の交付をもって、対象者との雇用契約が正式に解除されます。
その後は解雇した際と同様、退職金の支払いや、ハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」の提出等を行います。
整理解雇の基本的な手続き方法は以上です。
整理解雇の回避策
整理解雇は、あくまで業績悪化に伴う費用削減手段の一つです。労働者側に責任はないため、可能な限り整理解雇を避ける努力をしなければなりません。
当セクションでは、整理解雇の回避策として企業が取るべきアプローチと、従業員の権利・対応策を解説します。
企業が取るべきアプローチ
企業としては整理解雇を行う前に、解雇回避の努力を実施しなければなりません。
例えば、残業の削減や勤務時間の短縮など、労務費を削減する努力をすることで解雇を回避しようとした行動と認められるケースがあります。
整理解雇を行う部署が限定されている場合、その部署の人員を他の部署へ配置することで改善できるケースがあるため、社内での人員配置転換は必要不可欠です。
また、役員報酬をカットすることは非常に大切です。企業側が身を挺して経費を削減する姿勢を見せることは、解雇回避の努力と認められやすくなります。
このように、解雇を回避する姿勢を見せることは、裁判で整理解雇が認められるために非常に大切なアプローチになります。
従業員の権利と対応策
従業員が整理解雇を言い渡された場合、「会社都合退職」となるため、退職金が発生するケースが多いです。企業の就業規則に、退職金についての項目が明記されていれば、退職金の支払い義務が発生します。
また、従業員は「解雇理由証明書」を企業に請求する権利があります。解雇理由証明書とは、どのような理由で解雇されるかが記載されている書類です。
従業員から解雇理由証明書を請求された場合に備えて、スムーズに発行できるよう準備しておきましょう。
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整理解雇と法的サポート
整理解雇を受ける社員は会社都合で職を失うことになるため、裁判に発展する可能性が非常に高いです。
ここからは、整理解雇の実施時における弁護士の役割と重要性や、法的支援を求めるタイミングを解説します。
弁護士の役割と重要性
整理解雇が裁判において「不当解雇」であると判断されると、多額の費用支払い義務が発生し企業に大きな損害が発生します。
仮に不当解雇であることが裁判で確定した場合、50万円から100万円の損害賠償に加え、判決日までの賃金や、退職解決金・和解金を支払う義務が生じます。
解雇にかかわる訴訟は、一般的に1年以上の期間を要します。また、退職解決金・和解金については、年収1〜2年分を要求されるケースが多いです。
仮に、不当解雇と判断された従業員の月収が30万円であり、最終判決までに1年2ヶ月の期間を要した場合、支払い義務が発生する費用は以下の通りとなります。
「判決日までの賃金(30万円×14ヶ月) + 退職解決金・和解金(30万円×12ヶ月) + 損害賠償(50万円) = 830万円」
この金額は決して少ない金額ではなく、場合によっては1,000万円を超えるケースもあります。このような多額の費用の支払いを避けるためにも、弁護士に相談し、整理解雇を適切に実施することが必要です。
いつ、どのように法的支援を求めるべきか
弁護士に法的支援を求めるタイミングは、整理解雇の実施を検討したときです。
整理解雇を実施する直前に弁護士に相談した場合、「整理解雇の4要件」が十分満たされておらず、整理解雇の実行が困難である可能性もあります。
例えば人員削減が必要であると企業側が判断しても、法的観点では不十分であると弁護士に判断されるケースもあると考えられます。また、整理解雇を回避する方法について、人員配置の変更等が困難である場合の代替案なども提案してもらえます。
よって、整理解雇を検討したタイミングで弁護士に相談し、具体的にどのように整理解雇を進めていけばいいか、アドバイスをもらうことを推奨します。
「整理解雇」に関するよくある質問(FAQ)
最後に、「整理解雇」に関するよくある質問(FAQ)を解説します。
- 「整理解雇」と「リストラ」はどう違いますか?
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「整理解雇」と「リストラ」は同じ意味です。
「整理解雇」が経営上の理由により行われる正式な解雇手続きであるのに対し、「リストラ」は企業の経営改善のため、人員削減を意味する一般的な用語です。
正式な法的手続き時や裁判時においては、「解雇」や「整理解雇」が使用されます。
- 整理解雇の際、退職金はどのように支払いますか?
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退職金は、就業規則の退職金規定に基づき支払う必要があります。
退職金規定は企業により異なりますが、整理解雇のような会社都合の解雇の場合、追加で手当金が支払われるケースもあります。
この際の退職金は、退職して1〜2ヶ月後に給与支払い口座へ支払われることが一般的です。
- 整理解雇を行う際の「4要件」とは何ですか?
-
整理解雇の4要件とは、裁判を行う際に判決の基準となる、以下4つの要件です。
- 人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
- 配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
- 整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
- 労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明が行われていること
これらの要件をもとに、整理解雇の適用可否が判断されます。
- どのような場合に整理解雇が「違法」とみなされるのですか?
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整理解雇の4要件を著しく満たしていない場合は、整理解雇が違法(不当)であると判断されます。
例えば不当な選考基準を用いて解雇者を決定した場合や、従業員・組合への説明・手続きを怠った場合などに違法となります。
- 「整理解雇」は「会社都合」として扱われますか?
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整理解雇は、会社側の経営不振や業績悪化に伴い落ち度のない従業員を解雇させる制度であるため、「会社都合」の解雇となります。
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まとめ
今回の記事では、整理解雇の基礎知識や通常の解雇との違い、手順や注意点を解説しました。
整理解雇が不当であると判決された場合、多額の費用を従業員に支払わなければならず、企業にとって大きな痛手となります。
当記事を参考にして、整理解雇の4要件を十分に満たしているかや、回避策は無いか等をしっかりと確認しましょう。