リスキリング研修に何が必要?導入のポイントと事例・課題解決法を紹介
急速に進むデジタル技術の進化や市場の変化に対応するため、デジタル人材の育成に取り組む会社が多くなっています。
リスキリング研修の実施を検討しているものの、何から始めてよいかわからない企業も多いでしょう。また、導入したことで本当に業績がアップするのか疑問を感じ、導入をためらう企業もあるかもしれません。
そこで今回の記事では、リスキリング研修について次の内容で解説します。
リスキリング研修に関する数々の疑問についても解説しますので、自社でリスキリング研修を導入する際の参考にしてください。
リスキリング研修の必要性
はじめに企業のリスキリング研修の必要性について、次の項目で解説します。
そもそもリスキリングとは
リスキリング研修とは、今後の業務に必要となるスキルや知識を身につけるための研修です。
リスキリングが必要とされる背景には、近年の技術革新や急速なビジネスモデルの変化があります。働き方の変化で人材の流動化も進み、既存のスキルだけでは企業・従業員どちらも変化に対応できなくなることが予想されます。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の『DX白書2021』によると、多くの日本企業が事業戦略を変革できる人材の不足を感じているとのことです。
業務のデジタル化により、今後不要になる職種もあれば新たに必要とされる職種もあります。
企業にとってのリスキリングが、不要な職種に従事する従業員を必要な職種へシフトさせ、雇用を守りながら業績改善を図る鍵といえるのではないでしょうか。
リスキリング研修の目的
リスキリング研修の目的は、従業員が持つべきスキルや知識を身につけることにより、変化する業務に適応し、企業の成長に貢献することです。
リスキリング研修の目標設定をする際には、研修期間、研修内容、研修の評価基準などを含めて行うことが大切です。目標を明確にすることで、従業員が研修に取り組みやすくなり、研修成果を高めることができます。
リスキリング研修のメリット・デメリット
企業でリスキリング研修を行うメリットは次のとおりです。
- 従業員のスキルアップ
- 従業員のモチベーションアップ
- 業務効率の向上
- 企業の競争力の強化
従業員が新しいスキルを身につけたことで仕事へのモチベーションが上がります。また、業務プロセスが改善され業務効率が向上し、企業の業績アップに貢献します。
一方で、リスキリング研修には次のデメリットもあります。
- 研修費用や研修期間の負担
- 研修効果の測定や評価の難しさ
- 研修成果の実務への活用
リスキリング研修の成果や費用対効果は短期では目に見えにくいため、一般的な研修に比べると評価方法の選定が難しい傾向にあります。
研修成果を実務に活用できているかを判断する指標も、新規事業の進捗に左右されます。そのため事業で成果を確認できるまでは、研修成果を実感しにくいともいえるでしょう。
リスキリング研修の導入ポイント
企業がリスキリング研修を効果的に導入するためのポイントを3つ紹介します。
Point1. 研修の目的を明確化する
リスキリング研修を効果的に実施するためには、研修の目的を明確化する必要があります。
企業がリスキリング研修を導入する背景には、業務の変化や技術革新、従業員のスキル不足などの課題があります。その中で、自社がどの課題を解決したいのかを明確にし、研修の目的としましょう。
目的に合わせた研修を実施すれば、従業員がこれからの業務に必要なスキルや知識を効率的に習得でき、業務改善へとつなげられます。
Point2. 研修計画や予算が適切か確認する
リスキリング研修が効果的に実施されるためには、事前に研修計画や予算が適切であるかを確認する必要があります。
実施の前に、研修計画の策定や予算の確保、研修内容の検討、研修担当者の選定などの入念な準備を行いましょう。
事前の準備をしっかり行うことで、スムーズな研修実施や研修成果の向上が期待できます。
Point3. 導入方法を検討する
リスキリング研修を効率よく実施するためには、自社従業員の勤務状況に合わせた研修方法を検討する必要があります。
リスキリング研修の導入方法には、社内研修、社外研修、eラーニングなどがあります。受講者の実務と両立できるよう選択するとよいでしょう。
また研修の運用には、研修の評価やフォローアップ、研修成果を反映した人事制度の改定なども含めて考える必要があります。
研修の導入方法や運用方法を適切に決定することが、研修効果最大化の決め手です。
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リスキリング研修の課題と解決策
ここでは研修を導入するに当たっての、よくある課題とその解決法を紹介します。
研修の課題
多くの企業でリスキリング研修導入の課題となっているのは、次の事項です。
- 研修実施に伴うコストや負担
- 研修成果の測定や評価の難しさ
- 研修後のフォローアップ
費用を捻出できないために、研修実施に踏み切れない企業もあります。また研修の効果測定が難しく、費用対効果が低いと判断されてしまうことも、研修に予算を割けない原因です。
また、せっかく研修で学んでも、研修後のフォローアップをしていなければ、学びを職務に活かすことができず、研修が無駄になってしまいます。
課題の解決策
リスキリング研修における課題を解決するために、次の項目をクリアにしておきましょう。
- 研修計画の策定や予算の最適化
- 研修成果の測定や評価基準の明確化
- フォローアップ体制の整備
研修計画に無理があると、研修自体を継続できず、費用の無駄遣いにもなりかねません。従業員の実務との兼ね合いを鑑みて、無理のない計画を立て、適切な予算配分をしましょう。
研修実施前には、従業員側のニーズやスキルアップの必要性を十分に把握することも重要です。そのうえで研修後にフォローアップを行い、研修内容を実務に活かせているかを確認しましょう。
研修の成果を測定するための指標を、あらかじめ決めておくことも大切です。
リスキリング研修の成功事例
リスキリング研修導入のイメージをつかめるよう、次の事例を紹介します。
研修の導入事例
リスキリング研修の導入事例には、業務プロセス改善研修やグローバル人材育成研修、デジタル技術研修などがあります。
次の研修導入事例を参考に、自社に最適な研修の導入方法を検討しましょう。
SOMPOホールディングス株式会社
リスキリング研修でデジタル技術の習得と業務プロセス改善を図った事例を紹介します。
保険大手のSOMPOホールディングス株式会社は、事業の要にデジタル事業を加えることを発表。今後、国内グループ全従業員6万人を対象に「DX基礎研修」を実施することで、従業員のデジタルスキル習得を計画しています。
紙業務の多い保険業界としては異例の試みです。同社では、DX人材を次の3つに分類し教育する方針です。
DX企画人材 | デジタル企画・情報収集 DXを「企画」する力を養う |
DX専門人材 | データサイエンス・デザイン・エンジニアリング DXを「実行」する人材を育成 |
DX活用人材 | 企画実現を支援・DX推進 DXを「活用」する人材を育成 |
これまでデジタル分野にノータッチだった人材を、リスキリングにより「企業の資産」に変換し、全社でデジタル事業を推進させる構想です。
株式会社キーレックス
リスキリング研修でグローバル人材育成を図っている事例を紹介します。
株式会社キーレックスは、中国・タイ・メキシコに工場を持つ広島県の自動車部品メーカーです。CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)に見られるとおり、現在は自動車業界100年に1度の転換期といわれます。
顧客ニーズの変容もありグローバル化の必要性が増したため、キーレックスでは従業員の英語力向上を図りました。
以前から講師による英会話教室を本社で実施していたものの、参加できる者が少なく思うような学習効果を得られませんでした。そこで現在は、海外出張前の従業員が都合に合わせて受講できるよう、オンライン英会話教室を併用し、従業員のスピーチ能力向上に取り組んでいます。
同社ではオンライン英会話を大卒内定者にも提供し「内定辞退防止」に活用しています。
2024年に100周年を迎えるキーレックスは、次の100年も世界で活躍できる人材を育てたい考えです。
研修の成功事例
リスキリング研修の成功事例には、業務プロセスの改善や生産性の向上、従業員のスキルアップやモチベーションアップなどが見られます。
次の成功事例を分析することで、研修効果を最大限に引き出すためのポイントを把握し、研修の改善に役立ててください。
キヤノン株式会社
リスキリング研修により従業員のスキルアップに成功した事例を紹介します。
キヤノン株式会社では、2018年から2021年までの3年間で、140人もの非デジタル人材をエンジニアへとキャリア転換させることに成功しています。
キヤノンは2018年にソフトウェア技術者育成機関「CIST」を設立し、エンジニア育成を行ってきました。
大胆なリスキリングの背景には、主力商品の事務機器やデジタルカメラの市場縮小がありました。キヤノンでは新市場の開拓に向け、従業員をスキルチェンジさせる方針を取ったのです。
現在キヤノンは監視カメラの分野に進出し、画像解析のソフトウェア開発ができる人材を社内で育成しています。同時に工場勤務者などに対してもクラウド研修・AI(人工知能)研修を行い、全社的なDX化を推進しています。
今後は産業機器・商業印刷・ネットワークカメラ・メディカル分野の事業成長を加速させ、新たな事業領域を開拓する方針です。
株式会社陣屋
従業員のリスキリング教育で、大がかりな業務プロセスの改善に成功した事例を紹介します。
株式会社陣屋は、将棋・囲碁のタイトル戦でもおなじみの老舗旅館です。2009年には倒産の危機にありましたが、独自のシステム開発と全社的なIoT化の推進により、3年で経営を建て直しています。
再建以前の陣屋では、従業員はサービス係・清掃係などセクションごとに垣根があり、顧客情報の共有も少なく、業務はすべて紙ベースで行われていました。経営の改善を図るためにまず着手したのは、業務のIoT化です。
大型宿泊施設向けのシステムでは仕様が合わず、自社でシステム「陣屋コネクト」を開発、2010年から運用を開始。
当初はパソコンすら使えない従業員たちの抵抗に遭いますが、まずは出退勤管理をコネクトに移行する所から始め、徐々にオペレーションのIoT化とインターフェースの改善を進めました。
従業員にシステムが浸透するとともに、職種間の情報共有と連携が生まれ、業務が合理化され、最終的には行き届いた顧客サービスの提供が可能になりました。現在では週休3日制を導入できるまでに業務時短が進み、従業員の満足度も上がっています。
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よくある質問(FAQ)
ここでは、リスキリング研修についてのよくある質問をご招待します。
- 「リスキリング」と「スキリング」の研修に違いはありますか?
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「リスキリング研修」と「スキリング研修」は、従業員のスキルアップを目的としている点では共通しています。
ただしスキリング研修は既存のスキルの向上を、リスキリング研修は新しいスキルの習得を目的としているのが異なる点です。
現在では求められるスキルの変化により、既存のルーチンを習得するスキリング研修よりも、リスキリング研修へ重きを置く企業が増えています。
- リスキリング研修では、具体的に何を学ぶのでしょうか?
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リスキリング研修にはさまざまな目的があり、目的別に必要な内容が異なります。
一般的には、次の研修を導入する企業が多い傾向です。
- 技術やツールの習得:プログラミング、データ分析など
- 業務プロセスの理解:タイムマネジメント、業務時短術など
- プロジェクトマネジメントのスキル:プロジェクトツール、チームビルディング、リスクマネジメントなど
これらの中から自社の課題を解決できる研修を選択し、実施することをおすすめします。
- リスキリング研修を実施する際に、助成金の制度を活用できますか?
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企業研修に対する助成金制度は数種類ありますが、リスキリング研修が対象となるのは次の制度です。
スクロールできます助成金 概要 人材開発支援助成金・事業展開等リスキリング支援コース ①新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴う人材育成
② 業務の効率化や脱炭素化などに取り組むため、デジタル・グリーン化に対応した人材の育成に取り組む事業主を対象に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を支援する制度人材開発支援助成金・人への投資促進コース デジタル人材育成や労働者の自発的な能力開発に対する「人への投資」を支援する制度 「人への投資促進コース」は、さらに次の制度に分かれています。
- 高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練
- 情報技術分野認定実習併用職業訓練
- 定額制訓練(サブスクリプション)
- 自発的職業能力開発訓練
- 長期教育訓練休暇等制度
事業所と従業員が助成金の支給要件を満たしていれば、e-ラーニングなどのオンライン研修も支給対象に含まれます。
このほか東京都で「DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援制度)」を実施するなど、自治体で助成金制度を実施しているところもあります。研修導入をお考えの方は各自治体にお問い合わせください。
助成金制度の利用は、事業者と受講者に詳細な受給要件が定められています。事業所や受講予定者が該当するかどうかを確認しましょう。また助成金は事後給付のため、研修実施時に費用の支払いが必要な点にもご注意ください。
- リスキリング研修を無料で提供している企業はありますか?
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一般的に、リスキリング研修を無料で提供しているケースは少なく、多くは一定の費用がかかります。
中には無料もしくは低コストで提供されている研修もありますが、基礎的な内容などに限定されるのが一般的です。実務に必要なスキルや知識を身につけるためには、専門性のある有料研修プログラムを受講する方が効果的です。
まとめ
今回はリスキリング研修について幅広く解説しました。
業務のIoT化や顧客ニーズの多様化で、業界業種を問わず新しい技能と知識の習得が必要になっています。企業が変化に対応し新規事業展開を実現するためには、全従業員のスキルアップを進めなければなりません。
なるべく早い段階で解決すべき自社の課題を整理し、必要な技能と知識を身につけるリスキリング研修を実施しましょう。自社での教育が難しいスキル開発は、侍エンジニア Biz のようなプロの人材育成集団にお任せください。