ICT教育の課題3つとその要因8つ|今ある課題の改善方法とは

日本はICT教育を進めるにあたり、環境の整備を進めていますが、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は平成31年3月地点で5.4人に留まり、地域や学校間で格差があります。

この記事では、ICT教育が進まない課題と要因を取り上げ、改善策をまとめました。

この記事の要約
  • ICT教育はPC・タブレット・インターネットを活用した教育手法
  • 公立高と私立高における意識・ITリテラシーなどの格差がICT教育の課題
  • 課題解決には教育現場だけでなく自治体や企業との協力が必要不可欠
目次

ICT教育とは

ICT教育とは、パソコン・タブレット端末、インターネットによる情報通信技術を活用した教育手法です。ICTはInformation and Communication Technologyの頭文字から来ていて、日本語に訳すと「情報通信技術」です。

ICTはIT(Information Technology)の異称として使われる場合もあります。

ICT教育の現状

現在、ICT教育に必要な環境の整備が整っていない学校は多くあります。ICT教育を実現するにはコンピュータ・電子教科書・電子黒板・インターネット環境が必要で、特に電子教科書を使うには、生徒1人につき1台のコンピュータが必要です。

しかし、「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」において、教育用コンピュータ1台当たりの生徒数は平成31年3月地点で5.4人に留まっています。

ICT教育の3つの課題とそれぞれの要因8つ

令和2年度から実施される「新学習指導要領」は、情報活用能力の育成と学校内のICT環境整備やICTを活用した学習活動が大きな柱となっています。

小中学校でのプログラミング教育の必修や、高校で履修が必須の「情報1」が新たな科目となります。しかし、学校側でICT教育に必要な環境整備が進んでいないという課題があります。

課題1:ICT機器整備の地域格差

都道府県別で、学校のICT環境整備に格差がみられます。

文部科学省が発表した平成30年度「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」内の「都道府県別コンピュータの設置状況の実態」調査では、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は全国平均5.4人です。

この内佐賀県は1.9人で普及が進んでいるのに対して、愛知県7.5人や埼玉・千葉県7.4人と遅れていて、ICT環境整備に課題があります。

課題の要因1:無線LAN整備の遅れ

平成30年度「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」内の「都道府県別インターネット接続状況の実態」調査では、教室内のLANの整備率は全国平均で89.9%と高いですが、無線LANは全国平均で41.0%とまだ半分にも達していません。

最も整備されているのが静岡県の73.4%で、最も整備が進んでいない新潟県は13.6%で、地域格差による課題が見られます。

課題の要因2:学校の長い歴史教育からの脱却ができない

都道府県間でICT教育に差が生じているのは、ICT教育機材を学校に導入しても、学力向上に繋がらないため、教師は現状のままでよいという認識があります。

令和元年度の都道府県別学力テスト正解率を見ると、ICT機器整備が進んでいる県と遅れている県とでは相関性が見られません。この点は今後の課題でしょう。

課題2:整備に対する公立校の意識格差

公立校はICT整備を一体で運用出来ない課題があります。ICTの環境整備は私立校と公立校の意識の違いが課題となっています。

私立校はICT機器を導入する際、学校と教職員が一体となって推進への取り組みが可能なのに対して、公立校は自治体・教育委員会・教職員それぞれがICT導入に対する思惑が異なるります。そのため、整備が進まない課題があります。実際に自治体が予算配分されても、実際の整備に課題があります。

課題の要因3:教育委員会と教員の職場が異なっている

文部科学省は、教員のICT活用指導力の向上として、教育委員会・教育センター等が研修に関わる必要があるとしています。

しかし、教員と教育委員会は職場が異なるので、学校でICT機器や環境を整備したとしても、教師自身に経験がないので、客観的なデータが得られず、自治体は国から財政措置が講じられても、予算化に至らない課題があります。

課題の要因4:学校現場に裁量がゆだねられる

教育委員会は学校へICT機器の導入や教師への研修を行っています。しかし、研修を行っても具体的にどのように活用するかまでは教育委員会と学校との間で意思疎通ができておらず、学校現場による裁量に委ねられています。

そのため、実際どのように使うか困惑している教師が多くなる課題があります。実際に機材導入が進んでも、活用されないケースがあります。

課題の要因5:機器活用の啓蒙までの労力

教師がICT機器活用の本質まで十分理解するのに時間をかける必要があります。

公立校でICT機器を十分に活用するには、教育委員会や教師の研修会を通じて、多大な時間と労力をかける必要があるので、この点が私立校と異なり、一体となって導入が進まない課題となっています。

実際、全国ICT教育首長協議会の「わがまちのICT教育の課題と取組」の中で、ICT活用を課題として挙げている自治体が多いです。

課題の要因6:保護者世代の理解が得られない

文部科学省のICT教育方針を知らない保護者が8割を占めています。

文部科学省が2020年までに1人1台のICT教育を勧める方針について、大手学習塾の栄光ゼミナールが全国の母親500人を対象にしたアンケート調査を行った所、「知らない」との回答が多く、理解が得られていない課題が浮き彫りになりました。

保護者がICT教育より空調設備や防災防犯対策に関心が高い背景があります。

課題3:ITリテラシーの格差

教師は1日の労働時間が長くかつ業務量が多いです。このため、ITリテラシー(通信・ネットワーク・セキュリティなどの要素についての理解や操作する能力)が持てず、ICT機器を導入しても、教師が使いこなせない課題があります。

文部科学省は小中高等学校の学習指導要領の改訂に伴い、教師のICT活用指導力の向上が急務の課題です。

課題の要因7:教員の業務量の多さ

昨今の働き方改革で、社会全体で仕事の改善に対する取り組みが進んでいて、教育現場においても改善の兆しがあります。

しかし、殆どの学校では改善が進まず、多くの教員が試験問題の作成や採点を自宅に持ち帰って仕事をしている課題が浮き彫りになっています。

課題の要因8:ICTについて勉強できる時間がない

学校の教師は業務量が多く、忙しい職種です。文部科学省が発表した平成28年度の平日の勤務時間は、小学校教師が11時間15分、中学校が11時間32分です。

これは生徒が登校してから下校までの間、教室・体育館・グランドで過ごすため、ICTを勉強する環境を作れず、ICT機器関係者と教育現場との間にITリテラシー格差が生じているのが課題となっています。

3つの課題それぞれの改善方法

ICT教育には自治体・企業との協力が必要です。これまで3つの課題を説明しましたが、ICT機器の導入・活用・ITリテラシーを教育現場だけで解決するのは困難で、自治体でも機器導入の予算面で難しい面があります。

国や文部科学省の施策を加速化するために全国ICT教育首長協議会が設立され、自治体の首長が主体となって相互の連携を図り、ICT教育の各課題解決を試みています。自治体・企業との協力が必要です。

ICT機器整備の地域格差の課題改善方法2つ

各自治体がICT教育導入の優先度を上げる必要があります。

各自治体によってICT整備に格差が生じる課題は2つ要因があります。1つは教育用コンピュータ導入の予算確保が難しく、優先度が下がってしまう点です。

もう1つは、自治体の担当者がICT教育に詳しくかつ積極的かによる力量の差です。これら2つの課題を改善するために、文部科学省は「地方自治体のための学校のICT環境整備推進の手引き」を出しています。

課題改善方法1:教育委員会が主体性を発揮する

教育委員会が主体的に段階を踏んだICT環境の整備に努めて格差を縮めます。

教育委員会は「地方自治体のための学校のICT環境整備推進の手引き」にもとづいて、段階的かつ計画的なICT環境の整備に努めて、地域格差の課題を主体的に解消していく必要があります。

特に自治体の教育課題・目標に対して実現する手段としても、ICT環境整備及び活用が重要です。

課題改善方法2:地方財政措置を活かす

文部科学省は2018~2022年度までに単年度1,805億円の地方財政措置を講じます。

文部科学省は「2018年度以降の学校におけるICT環境の整備方針」を取りまとめ、「教育のICT化に向けた環境整備5カ年計画(2018~2022年度)」を策定しました。

この中で、ICT整備を加速して地域格差の課題を解消するために、文部科学省は教育委員会に地方財政措置の積極的活用を提言しています。

整備に対する公立校の意識格差の課題改善方法

日本教育工学協会(JAET)が公立校の格差の課題について取り組んでいます。

JAETは総合的に情報化を進めた学校を認定する「学校情報化認定」を行い、優良校が一定以上の割合になった地域は、「学校情報化先進地域」として表彰を行います。JAETは全国大会を開催して情報交換を図り、教育の情報化を推進する人材を育てています。

教職員と保護者への啓発活動を進める

教育委員会がビジョンを策定して推進していく必要があります。

文部科学省は平成20年に学校における情報化の推進体制として、東京都日野市の例を取り上げています。教育委員会が教育のビジョンを策定して推進する時、教育委員会内の各部署が主旨を理解し、機会あるごとに広く教職員や保護者への周知を図るために啓発活動を行い、理解を得る必要があります。

ITリテラシーの格差の課題改善方法

自治体の首長や教育長の強い推進力と教師のボトムアップが合わさる必要があります。

教師のITリテラシー格差による課題では、ICTは授業改善のための道具と考えて、日常的に普段から使えることが大切です。ICT環境整備後も課題と向き合いながら、より使いやすい環境に進化するために、企業からのサポート・教育委員会でICT研修の継続が必要となります。

東京都墨田区のケースが好例です。

企業から学校へのサポート

ITリテラシー格差を解消するために、教育委員会が企業と連携して教師のICT活用力をサポートする事例が奈良県にあります。

奈良県教育委員会は、IT関連及びデジタルコンテンツの人材養成スクール・大学・大学院を運営するデジタルハリウッド株式会社と連携して、県内の公立学校の教師を対象に効率的かつ創造的な授業作りができる支援を行っています。

ICT教育の課題を知って解決を目指そう

ICT教育の課題は自治体の教育委員会と一体で解決することが大切です。

公立校や地域間の格差は自治体の首長や教育委員会の推進していく力と現場の教師からの問題点を挙げていくことが合わさり、企業のアイデアをとりいれながら解決していきます。

この記事を参考にICT教育の課題と改善の施策について把握し、ICTをどう活用していくか自治体も含めて考えて、よりよいICT教育を目指しましょう。

この記事を書いた人

【プロフィール】
DX認定取得事業者に選定されている株式会社SAMURAIのマーケティング・コミュニケーション部が運営。「質の高いIT教育を、すべての人に」をミッションに、IT・プログラミングを学び始めた初学者の方に向け記事を執筆。
累計指導者数4万5,000名以上のプログラミングスクール「侍エンジニア」、累計登録者数1万8,000人以上のオンライン学習サービス「侍テラコヤ」で扱う教材開発のノウハウ、2013年の創業から運営で得た知見に基づき、記事の執筆だけでなく編集・監修も担当しています。
【専門分野】
IT/Web開発/AI・ロボット開発/インフラ開発/ゲーム開発/AI/Webデザイン

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