フリーランスエンジニアから法人化する場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
今回はフリーランスエンジニアが法人化するメリットやデメリット、法人化の手順、フリーランスから法人化するタイミング・目安について解説していきます。
- フリーランスエンジニアから法人化を検討している方
- 法人化のメリットやデメリットについて知りたい方
- 法人化するまでの手順について把握したい方
- 法人化するタイミング・目安を明確にしておきたい方
ただのフリーランスエンジニアと法人の違いとは?
フリーランスと法人の違いで一番分かりやすいのは「社会的信用」です。フリーランス(個人事業主)は、会社員とは違い収入が安定していないイメージが強いですし、例えば車のローンやクレジットカードの審査は厳しい傾向にあります。
法人化すれば、会社の「社長」と名乗ることもできるので、一般的なイメージとしては社会信用が上がります。資金調達や節税もしやすくなり、社会保険にも加入できるので老後の不安もなくなるでしょう。ただし、その分背負う責任も大きくなるので、自身の負担も増える点がデメリットともいえます。
また、法人には以下の4つの会社形態があります。
- 株式会社
- 合同会社
- 合資会社
- 合名会社
社会の一般的なイメージでは「株式会社」がもっとも信用度があるので、フリーランスエンジニアから法人化する場合は「株式会社」を選択することが無難といえるでしょう。
フリーランスエンジニアから法人化する7つのメリット
フリーランスエンジニアから法人化する場合、さまざまなメリットがあります。フリーランスで活動していたエンジニアが法人化する場合、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここではフリーランスエンジニアから法人化する7つのメリットを紹介しましょう。
決算期を選ぶことができる
フリーランスエンジニアは、法人化することで決算期を自由に設定できます。個人事業主の決算期は12月になっており、変更することはできません。
一方、法人の場合は決算期は何月にでも設定でき、さらにあとから変更することも可能です。たとえば、事業が忙しい時期を避けて決算期を設定したり、ちょうど入金が多い時期に合わせたりすることで負担の軽減が可能になります。
消費税の支払いが2年間免除される可能性がある
フリーランスエンジニアは法人化することで、一定の条件を満たせば2年間消費税が免除になります。
一般的に課税売上高が1000万円を超える場合、消費税の支払い義務が発生します。しかし財務省の事業者免税点制度の概要にもあるとおり法人化すれば、資本金が1000万円未満であれば最初の2年間は納税義務を免除される可能性があります。
ただし、個人事業主でも最初の2年間は支払いが免除できる可能性があるため、条件に関しては税務署のHPでチェックしておきましょう。
社会的信用を得られる
フリーランスエンジニアは法人化することで、社会的な信用を向上させることが可能です。
フリーランスとして活動していると、取引先からの信用が得にくい、ローンが借りにくいなど社会的な信用にさまざまなデメリットを感じることがあります。例えば、大きな事業を請け負いたくても個人事業主では事業を拡大するのは難しいです。
そのため、もっと大きな事業を請け負いたい、という思いで法人化して企業の社長になるという方もいます。
取引先に損害を与えてしまった場合のリスク分散
フリーランスエンジニアは法人化することで、損害賠償などが発生した場合にリスクを分散することが可能です。もし個人事業主が取引先に損害を与えた場合、全ての責任を一人で追う必要があります。そのため、たとえば事業に失敗した場合、返済の義務が発生します。
一方、経済産業省の報告でもあるとおり法人化すると、事業の責任が有限責任となります。そのため、事業に失敗して取引先に損害を与えても、個人には借金返済義務は発生しません。リスクを分散させる目的で、法人化するのも有効でしょう。
給与所得控除が適用される
フリーランスエンジニアは法人化することで、給与所得控除の恩恵が受けることが可能です。企業に勤めている場合、給与所得控除としてさまざまな税金が差し引かれた後の金額に対して所得税がかかります。
しかし個人事業主の場合は、売り上げから経費を引いた残りの収益に所得税がかかるため、給与所得控除のメリットが無くなります。一方、法人化することで自身が社長として役員報酬を得れば、給与所得控除が適用可能です。詳しくは財務省のHPをご覧ください。
会社の損金として計上できる
フリーランスエンジニアは法人化することで、さまざまな費用を会社の損金として計上することが可能です。損金とは、会社の収益から差し引くことができる「費用」として扱うことができるものです。
国税庁によると法人の場合、資本金が1億円以下なら交際費の飲食分を800万円まで損金にできます。また、資本金が1億を超えても50%までは損金にできます。さらに法人の場合は退職金を支給できますが、適正額までは損金として扱えます。
法人化すると社会保険に加入できる
基本的にフリーランス(個人事業主)は、国民健康保険・国民年金に加入することになっています。しかし法人化した場合は、フリーランスエンジニア自身や従業員も、社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入が可能。
社会保険は、国民年金に加えて厚生年金保険もあるので老後に受け取れる年金が増えるメリットがあります。さらに、社会保険に含まれる健康保険では、病気などで仕事を休んでも傷病手当金といった保障が受けられるのもメリットの1つ。
また、従業員を募集するための求人に「社会保険完備」と記載できるので、会社としての信頼性も高まり、人材を集めやすくなる効果も期待できます。
フリーランスエンジニアから法人化する4つのデメリット
フリーランスエンジニアから法人化する場合、デメリットも存在します。フリーランスで活動していたエンジニアが法人化する場合、事前にどのようなデメリットがあるかも確認しておきましょう。
ここでは、フリーランスエンジニアから法人化する4つのデメリットを紹介します。
役員報酬の変更が容易ではない
フリーランスエンジニアは法人化することで、役員報酬の算出について苦労する可能性があります。
法人化すると、自身が社長として役員報酬を受け取ることができます。しかし国税庁によると、役員報酬は年度初めに金額を決めるようになっているため、儲かったか儲からなかったかでその年の報酬額を変更することができません。
そのため、赤字の場合は役員報酬のせいで税金まで支払わなくてはならないケースもあります。
「社会保険料」という負担が増える
フリーランスエンジニアは法人化すると、社会保険料の支払いなどの会社負担が発生します。さらに、人を雇う場合は、雇用保険などの経費も発生します。
経費が増えても赤字にならない場合であれば、法人化することのメリットが大きいと言えるでしょう。
赤字でも税金を支払う義務がある
個人事業主の場合、赤字であれば税金を支払う必要はありません。
しかし国税庁などによると、法人の場合は1年間の利益が赤字であっても、必ず法人住民税の均等割による税金の納付義務があります。つまり、赤字でも毎年7万円の住民税の支払い義務が発生するということです。
経理や税金などの知識が必須となる
フリーランスエンジニアから法人化した場合は、会社(企業)の経営状況を把握するために、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を理解できなければいけません。会社(企業)の決算報告に備えるため、経営者として会計、経理、税金に対する知識を学び、財務諸表を読み取れるようになっておきましょう。
税理士や会計士に任せておけばいいのではないか?と考える方もいらっしゃいますが、専門の税理士などにアドバイスをもらいつつ、自身でも日頃から節税対策を怠らないという経営者は普通にいます。現在は一般のビジネスマンにも財務諸表を読み取る知識が必要とされてきているので、経営者ならばなおさら学んでおくべきでしょう。
フリーランスエンジニアから法人化する6つの手順
フリーランスエンジニアから法人化するには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか? 実際にフリーランスエンジニアから法人化しようと考えた場合、具体的な手順がわからないということもあるでしょう。
ここでは、フリーランスエンジニアから法人化する6つの手順を紹介します。
相談する司法書士を見付ける
まずは、相談する司法書士を見つけましょう。法人化する場合、会社設立に関する手続きを一人でおこなうのは大変です。
司法書士は会社の登記業務の専門家なので、会社の登記業務を代行してもらうことが可能です。ただし、税務関係の業務については司法書士は専門外となっているため、税務や会計について相談したい場合は別途税理士に相談するようにしましょう。
法人の登記住所を確保する
法務局で会社設立の登記申請をおこなう場合、書類に記載欄のある所在地の住所を用意する必要があります。
個人事業主の場合は自宅を事務所として登録する場合も多いですが、賃貸物件は法人利用できないケースも多いです。最近では住所のレンタルサービスなども登場しているため、所在地の住所を用意できない場合はレンタルの利用を検討するのも良いでしょう。
資本金の設定をおこなう
次に、設立のための資本金の額を決めましょう。資本金とは、会社設立時の元手になるものです。
以前は最低資本金制度がありましたが、経済産業省の報告にもあるとおり現在は廃止されているため、資本金の金額は1円から自由に決めることができます。ただし、資本金は会社の社会的信用にもかかわるものですので、慎重に設定するようにしましょう。
司法書士に正式な依頼をおこなう
司法書士に会社設立作業を代行してもらうことで、自分で法務局などに出向くことなく、さまざまな手続きをトータルでサポートしてもらうことができます。そのため、忙しい人や事務作業が苦手な人は早めに相談しておきましょう。
司法書士への依頼費用は、株式会社の場合は7万円から10万円が相場となっています。
法人銀行口座の作成をおこなう
個人事業主の場合は個人の口座をそのまま利用できますが、法人の場合は法人口座を作成しましょう。法人口座の開設は必須事項ではないですが、法人になっても個人の口座を使っていると取引相手に不審がられるなど事業にさまざまな支障が発生するため、早めに用意するのがおすすめです。
また国税庁の報告にもあるとおり、法人で口座開設などをする場合は「特定法人」に該当するかどうかの確認も必要です。
顧問税理士と契約する
起業する場合、一般的にほとんどの人は顧問税理士と契約することになります。
法人として事業をおこなうためには、個人事業主時代よりもシビアな資金の管理が必要になります。そのため、適切な節税などのサポートを受けられるように、税理士と顧問契約を結ぶようにしましょう。
フリーランスエンジニアが法人化するタイミングと目安
ここでは、フリーランスエンジニア(個人事業主)から法人化するタイミング・目安について解説します。
売上高が1000万円を超えている
フリーランスエンジニアとしての1年間の売上高が1,000万円を超えた時点から2年後に、消費税の納税義務が発生します。しかし「2年前の売上高が1,000万円以下である」という条件を満たしていれば、2年間は消費税が免除されます。
例外として、下記に該当していると法人化しても2年間免除されないこともあります。
- 資本金が1,000万円以上ある
- 前年の上半期の売上高が1,000万円を超えていた
法人化1年目~2年目までは「2年前の売上高」が存在しないため、売上高が1,000万円を超えた段階で法人化すると、合計で4年間は消費税の免除を受けられることになります。
いずれにしても1年の売上高が1,000万円を超えそうになってきたなと感じたら法人化を検討するタイミングといえるでしょう。
課税所得が800万円以上
目安として、課税所得が800万円を超えたらフリーランスから法人化を検討する段階になります。
「課税所得」とは、個人の収入から必要経費を差し引いた「所得」から基礎控除などの各種所得控除の合計をさらに引いた金額のことになります。この課税所得に税率をかけて所得税額を計算します。
以下で、課税所得が800万円以上となった場合の税率を見てみましょう。
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 |
195万円以下 | 5% |
195万円を超え、330万円以下 | 10% |
195万円を超え、695万円以下 | 20% |
695万円を超え、900万円以下 | 23% |
900万円を超え、1,800万円以下 | 33% |
1,800万円を超え、4,000万円以下 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
上記の表を見ると課税所得が800万円を超えた時の税率は23%。これに対して法人税(中小法人)の税率は、800万円以下だと19%、800万円を超えると税率は23.2%で一定となります。(参照:国税庁「No.5759 法人税の税率」)
フリーランス(個人事業主)に課税される所得税の税率は5%〜45%と、個人の収入に比例して税率も高くなっていく仕組みになってるので、もし法人化しないまま課税所得が900万円を超えると税率で10%くらい損をすることになります。
結論として、課税所得が800万円を超えたらフリーランスエンジニアから法人化を検討するタイミングとなります。
フリーランスエンジニアから法人化する時はよく検討しよう
事業を拡大していきたいフリーランスエンジニアは、ぜひ法人化を視野に入れましょう。
フリーランス(個人事業主)は、社会的な信用や税金などにおいて不利な面が多いです。法人化すれば費用などの負担が増える面もありますが、以下のような法人だからこそ享受できるメリットもあります。
- 社会的な信用度があがる
- 税金面で優遇されやすくなる
- 負担は増えるが社会保険に加入できる
法人化すれば、フリーランス(個人事業主)では獲得することが難しい大きな事業でも、手掛けることが可能になるでしょう。ただし法人化する場合はタイミングなども重要なので、しっかり準備をして臨んでください。
なお、フリーランスが法人化するタイミングに関しては、フリーランス向けエージェントサービスを運営する「テックストック」が解説している下記記事を参考にしてください。