日本でも小学校の必修科目としての取り組みが始まったICT教育ですが、聞きなれない言葉に戸惑う人も多いのではないでしょうか。
今回はそもそもICT教育とはどういうものなのか、世界のICT教育の現状やメリット、デメリットをご紹介していきます。
- 日本のICT教育は環境整備の遅れや意識格差・人材不足など課題が多い
- 電子黒板やタブレットの導入など、ICT先進国は日本の数歩先を歩んでいる
- 家庭内での対策やスクール活用などもICT教育には効果的
ICT教育とは?
最近、テレビのCMなどでもICT教育を目にする機会が増えました。このICT教育とは、パソコンやiPadなどのタブレット端末を使用し、インターネットなどの情報通信技術を実際の授業に取り入れた教育方法のことで、世界的には以前よりICT教育を進めている国もあります。
日本でも、小学校の授業内容の中に組み込まれることになり、注目され始めました。
そもそもICTとは
そもそもICTとは、どのようなことを指すのでしょうか。ICTとは、「Information and Communication Technology」の頭文字をとっており、情報通信技術や関連する産業・設備のことを総称する言葉として使用されています。
よく聞く「IT」という言葉は「Information Technology」の略で、同じような意味で使用されています。そのためパソコンやタブレットなど、ICTの技術を授業に活用した教育のことをICT教育と呼んでいます。
ICT教育の目的とは
ICT教育の対象となるのは、ほとんどが小学生から高校生まで。では所謂成長期である子供たちに、このICT教育を実施する目的は何なのでしょうか。
それは以下の通りです。
- 情報活用能力の習得
- 創造力を養う
情報活用能力の習得
インターネットの普及から、私たちが得られる情報量はグッと増えました。一方で情報量が増えたため、その情報が真実なのか虚偽なのか分からないということや、情報をどう使えばいいのか分からず、持て余すことも多くなりました。
このような溢れる情報から、適切かつ必要な情報を自分から主体的に選択し、活用できる人間形成がICT教育の1つです。
創造力を養う
これまでの教師から生徒への一方的教育では、マニュアル対応の上手い人間形成はできても、世の中に革新を起こす創造力を持った人間を育成するのは難しいとされてきました。しかしICT教育は、教師と生徒の双方向型のアクティブラーニング授業を主体として行うため、生徒の自主性、考える力、発想力を鍛えることができるとされています。
技術革新が目まぐるしい現代において、創造力によって新たな革新を起こすことは、世界で戦うために必須なため、このような授業は今後増加していきます。
ICT教育により得られるメリット
ICT教育は通常の授業とは違い、電子黒板やタブレットなどの端末を使用するので、その分通常の授業にはないメリットがあります。
主なメリットは、テレビ通話機能などにより世界と繋がれるので、今までよりも授業の幅が広がる・生徒の関心や興味を引きやすいこと。次に、動画や画像を活用することによって、勉強に対するモチベーションを上げられることや、教科書の文字だけでは伝わりづらい内容も、動画や画像をつかって効率的に学習できる。
他にも、内向的な生徒の場合、発言をしなくても積極的に授業に参加しやすくなる、教員が紙媒体の資料作成や、印刷などして用意をする時間を減らせる、など多数あります。
日本におけるICT教育の現状と課題
上記でICT教育についてや、その効果の有効性について分かっていただけたでしょう。平成31年2月に文部科学省より発表された「教育の情報化の現状と今後の方向性」の中では、学校教育に対するICT教育の整備事項が記載されていますが、現状を見るに課題はまだまだ多くあります。
ICT教育の理想だけを語るだけでは駄目です。現実を見て、その対策をしっかり立てなければICT教育は絵にかいた餅で終わります。そこでここでは、日本の学校教育が抱えるICT教育の現状と課題について解説します。
ICT環境の整備が遅れている
ICT教育を行う上で不可欠なのが、PCやWi-Fiなど無線のネットワーク環境の設備導入です。これらがなければICT教育を始めることすらできません。しかし現状、日本ではこれらICT環境の整備が遅れていると言っても過言ではありません。
ICT環境の整備の指標として用いられるのに、PC1台あたりの生徒数(人/台)があります。日本は2018年時点で5.6人/台(文部科学省『学校のICT環境整備の現状(平成30(2018)年3月1日現在)』)です。一方、アメリカでは3.1人/台(株式会社富士通総研『教育分野における先進的なICT 利活用方策に関する調査研究 』)です。これは2008年時点なので現在はさらに向上していると考えられます。
つまり、日本はICT環境の整備に関してアメリカより10年以上も遅れをとっていることになるのです。2020年代はAI・機械学習の時代と言われている中で、この遅れは致命的になります。世界に追いつくには、現状を一刻も改善するため、ICT設備導入を早期に行うべきです。
ICT教育への意識格差が大きい
ICT教育は、これまでの学校教育の基本を覆すものとなります。そのため、教師の間でも「ICT教育を導入しても学力は向上しないから、現状から変更する必要はない」と考える人も多くいます。特に日本人は、現行に大きな問題を感じない限り現状維持を望む傾向が高いため、ICT教育という新しく、効果もまだ分かっていないものを受け入れ難いのでしょう。
このように政府がICT教育を推進しても、現場が望んでいないという意識格差がある限りICT教育は上手く活用されません。そしてその煽りを受けるのは生徒達という悲惨な結果が待ち受けます。解決策としては政府と教師が、教育の現場について話し合いを行い、両者の意見をすり合わせることですが、最も重要なことは国民1人1人が現行の常識はいつまでも通用しないという意識を持つことです。
時代はどんどん変化し、いままでの学校教育の常識もずっと通用しないと意識を持てば、ICT教育なんか必要ないから、有効的にICT教育を導入するにはどうすればよいか、という考えに変化するでしょう。
ICT教育を実施できる人材の不足
言うまでもなく、ICT教育を行うのは現場の教師達になります。そのため現在でも業務過多であるのに、新たな業務を行うべく、必要な勉強をしなくてはなりません。
- プログラミングスキル
- ITリテラシー
- 双方向型授業の資料制作スキル
最低限、上記のようなスキルが必要ですが、ただでさえ勤務時間の多い教師に、これらを勉強する時間を確保しろというのは無理難題です。ICT教育を実施できる人材の不足のため、ITリテラシー格差など生じているのが課題です。
この課題を解決するには、外部からプログラミングやITリテラシーを持った講師に依頼すること、そのための予算を政府が確保することが必要です。
ICT教育の一般的な認知不足
本記事の最初の方で、ICT教育とその目的などについて解説しましたが、読者の中でも改めてICT教育について良く分かったという方も多いのではないでしょうか。新しい教育ゆえ、その内容が一般に浸透しておらず、誤解されていることも多いです。例えば、
- プログラミング教育である
- ITリテラシーを学ぶ
などの考えは、全くの誤解ではありませんが、本質を理解していません。
ICT教育は単なるIT授業ではなく、そのITを活用して創造力をどのように養うかに重きを置いています。このことを一般の方も理解することで、ICT教育の現状は改善していくでしょう。
世界のICT教育の現状と事例10選
世界に目を向けると、ICT教育はどんどんと推し進められていて、テレビ番組などでも映像が流れることもあります。日本のICT教育は世界の状況と比べるとかなり遅れている、と言わざるを得ませんが、世界各国のICT教育の現状はどうなのでしょうか。
1:フィンランド
フィンランドの教育現場では、10年以上前からICT教育のカリキュラムを実施しています。基本的には、どの教室も電子黒板でプロジェクターがあり、教師はそれらを使って授業をすすめています。
一方、生徒は1人に1台、支給されているiPadなどの端末を使用して計算問題などを解いており、個人のレベルに合った授業を受けています。また、特別支援学級などでも個人の状態にあった内容を受けています。
しかし、紙媒体をすべて失くしたわけではなく、世界でも早くから上手にバランスをとりながらICT教育を進めている国のひとつです。
2:エストニア
エストニアは、ノルウェーやフィンランドと同じくバルト海に面した人口130万人の北欧の国で、地方に行くほど田園風景が広がるのどかな国。それゆえに、教育格差が起こりがちでした。
しかし、1996年にタイガーリープと呼ばれるICT教育プログラムを発表し、国全体でICT活用を推奨した結果、さまざまな公共サービスなどがオンラインで処理できるようになるなど、現在では世界をリードする電子政府(E-Government)としての立場を確立しています。
Skypeを作り出した国としても有名で、IDカードに電子居住権の登録をすれば選挙の投票も可能になるだけでなく、会社の設立も可能です。
3:ハンガリー
中央ヨーロッパの内陸部に位置するハンガリーのICT教育は、2003年に始まりました。小学校からカリキュラムに取り入れられたInformatikaは小学1年生から勉強できます。
Informatikaの主な内容としては、ITツールの利用法やアプリケーションの知識、テクニックと問題解決のツールとしてのIT利用などで、その本質を理解し適応していくとともに応用もできる細かいプログラミング教育は、世界でも注目されています。
4:オーストラリア
オーストラリアでは、州ごとに学年の区切りが違うなど、ICT教育のカリキュラムについても州ごとの政策に任せていましたが、2008年に国としてカリキュラムを決めるメルボルン宣言が発表されました。
現在では、4・5歳児が通う日本の幼稚園にあたる公立機関でYouTubeを教材としたり、デジタルテクノロジーを学習後、小学校からロボットの実験をしたりなど、プログラミングの勉強もしっかりと行う体制ができています。
5:イギリス
2014年、イギリスの義務教育の過程で大きな改定が行われ、それまでの「ICT」から「Computing」に変更されました。
イギリスの小学校では、週に2回ほどComputingが行われアルゴリズムなどの学習が実施。その学習がスムーズに進むように、ほぼすべての教室に電子黒板、もしくはホワイトボードとプロジェクタが備え付けられています。これは、イギリスがICT教育の環境整備に国を挙げて取り組んできた結果である、と世界的にも評価されています。
6:インド
インドといえば、世界的なIT先進国のひとつ。実際、インドはICT教育に国を挙げて力を入れています。
日本の小・中学校にあたる初等教育から授業に、コンピュータサイエンスとしてLOGOを用いた高水準のプログラミング教育が取り入れられており、子供が興味を持つような工夫もされているため、授業がハイペースで展開され成果が出ているので世界から注目されています。
7:オランダ
オランダは、生徒の個性に応じたICT教育に取り組んでいます。小学校の1つでは、1教室に約3台のPCと1つのタッチスクリーンボードを設置。タッチスクリーンボードでは情報共有や、プレゼン学習などに活用されています。
また、各学校が作成した教材などを地域内の学校と共有できるよう整備されており、教員同士で学習や生徒の悩みなどを共有しているため、教師一体となってICT教育を成功させる意識が熟成されています。
8:韓国
アジア圏内では最も早くICT教育の必要性を訴え、導入した国のひとつです。2007年に選択科目として中学・高校にプログラミング教育が導入され、2017年に小学校でソフトウェアの勉強が必修科目となりました。
9:アメリカ
IT企業のメッカともいわれるシリコンバレーに世界的に有名なIT企業の本拠地が置かれているように、アメリカではICT教育を受けた先に利益を生み出す、という動きができています。
アメリカでは、州や学校により多少の違いはあるものの、コンピュータサイエンスとして授業にプログラミングなどが取り入れられています。Googleを使用して宿題を提出するなど、日常的に利用されています。
10:イスラエル
国民あたりのエンジニア数が世界一ともいわれるイスラエルは、プログラミングなどICT教育の先進国で、国を挙げてICT教育への取り組みをしてきました。
1980年代から必修化はされていなかったもののICT教育が始まり、一部の高校でコンピュータサイエンス科目が選択できるようにされており、1990年代には国の高校すべてで同科目が導入されました。その結果、エンジニア数が世界一という評価を受けるようになったのです。
ICT教育の現状を家庭で変えてみよう
残念ながら学校など、現状のICT教育を改善し、整備するにはまだまだ時間がかかります。その間にも子供は成長していくため、満足いくICT教育を受けられないかもしれません。しかし、ICT教育は何も学校だけで行うものではありません。家庭内においてもICT教育を行い、子供の成長を促すことができます。
そこで、家庭内でもできるICT教育について、ここでは解説させていただきます。
家庭内でのICT教育
PCの普及にともない、現在はどの家庭でもインターネットに接続できる環境が整っているでしょう。その環境下でできるICT教育は以下のような形です。
- ①子供の質問にすぐ答えない
- ②PCなどを使用させ疑問点を調べさせる
- ③調べた内容について説明させる・聴く
上記は子供に考えさせる、調べさせる、説明させるなど主体的な行動を促す教育であり、これまでの「親の言うことを聞いておきなさい」という教育とは全く違います。子供が主体的となって考え、その考えの是非を親に問う教育こそ、将来、情報を活用して創造する人間へと形成するために重要なのです。
この時、子供の考えをめんどくさがらず、しっかりと”聴く”ということが親には求めらます。
民間教室でのICT教育
小学校でのプログラミングが必修化に伴い、民間のパソコン教室などでICT教育1つであるITリテラシーについて学んでいる人も増えてきています。子供向けのプログラミング教室は多数ありますが、ここでは有名な3教室を紹介します。
Tech Kids School
アメブロやAbemaTVで有名な、IT企業サイバーエージェントが運営する教室です。対象の小学生にプログラミングスキルを身につけさせることで、実績を出しています。
主要都市の20箇所にしかスクールがないのがネック。しかしこれから教室は増えていくでしょう。
リタリコワンダー
株式会社LITALICOが運営するプログラミング教室です。小学生だけでなく、幼稚園年長組からも教室で学習できるという、珍しい教室です。ネックなのは東京と神奈川にしか教室がない点です。
ヒューマンアカデミー
ヒューマングループが運営するプログラミング教室です。小学3年生から学習OKの教室で、コースも豊富にあり、月額9,720円というリーズナブルの金額も魅力的です。全国に200教室以上あるので、どこの地域でも通いやすいでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。本記事では日本におけるICT教育の現状と課題を解説し、世界各国のICT教育や家庭でもできるICT教育について説明してきました。
ICT教育は今後の世界経済の発展や、社会への貢献などに欠かせない教育です。しかしただ単純にプログラミング教育をすればよい、PCが使えればよいというわけではありません。身に付けたプログラミングやPCスキルをどう活用し、新たものを生み出せれるかが重要です。
ぜひICT教育について正しい知識を身に付け、自身または周囲のお子様と一緒に成長していってください。